2024年11月22日(金)

キーワードから学ぶアメリカ

2023年8月26日

第一回討論会の注目点

 今回の討論会の注目すべき点を、いくつか指摘したい。

 トランプは討論会を欠席したが、大きな存在感を示す人物であることを証明した。共和党候補となるためにはトランプを批判する必要があるが、トランプの背後にいる支持者を離反させては本選挙で勝てないというジレンマを全候補が抱えている。

 現在トランプに対して4つの起訴がされているが、これらの起訴を司法の武器化だとみなす考えが共和党支持者の中で主流となっている。だが、連邦議会議事堂襲撃事件でターゲットとされたペンスやクリスティ、ハチンソンはトランプに対する批判的な立場を明確にした。なお、トランプは討論会に注目が集まらないようにするため、元フォックスニュースのタッカー・カールソンによるインタビューを討論会と同じ時間にオンラインで流すなどした。

 ペンスとクリスティ、ヘイリーは安定感を示したといえるだろう。ペンスは元インディアナ州知事、トランプ政権の副大統領を務めた福音派の人物で、中絶などの争点に対する態度は社会的保守派の強い支持を得ている。

 クリスティは前ニュージャージー州知事で16年大統領選時にはトランプの応援団長的なふるまいをしていたが、新型コロナウイルス対策や20年大統領選挙結果をめぐってトランプと袂を分かった。州知事時代に同州にハリケーンが襲来した際にはバラク・オバマ大統領と協力して対応するなど柔軟な態度をとった。

 ペンスとクリスティはすでに著名で多くの経験を積んだ人物であり、これまでにさまざまに批判しつくされているともいえる。一定の支持を保ち続ければ、他の候補が全滅した際に残ったのは彼らだけだった、という展開も考えられるだろう。

 ヘイリーは他候補への批判よりもバイデン政権や中国、インドを批判する傾向が強かった点が特徴的だった(ただしラマスワミに対しては批判的だった)。ヘイリーはサウスカロライナ州知事としても国連大使としても実績がある。現在のところ唯一の有力女性候補、非白人候補なので、トランプ以外の人物が候補になった場合、副大統領候補として考慮されるだろう。

 スコットは現在共和党唯一の黒人の現職連邦上院議員である。保守的な行動をとっているものの、人種への考慮から警察改革などでは超党派的行動をとったこともあり、彼も副大統領候補として最適と考えられる。彼も他候補への対決姿勢を前面に出さなかったのは、その点も念頭においていたと考えられるだろう。

〝新生〟と苦しんだデサンティス

 今回、最も目立っていたのはラマスワミかもしれない。彼はバイオテクと医療関係の投資家であるとともに、左派が展開する「ウォーク」文化とアイデンティティ政治を批判するなどしてにわかに注目された人物である。ヘイリーとは対照的に、他候補を批判するなどして目立とうとする姿勢が顕著だった。

 38歳という若さもあって世代交代を強調し、連邦政界のアウトサイダーであることを強調する傾向が強かったが、クリスティに「ChatGPTが話しているみたいだ」と批判されたり、ペンスに「今はOJTをやるべき時ではなく、経験のないルーキーではダメだ」と一蹴されたり、ヘイリーに外交政策についての軽率さをたしなめられたりしたが、支持者からの声援は非常に大きかった。

 トランプに次ぐ第二位の支持を得ているデサンティスは、ある意味そつなくこなしたといえる。ただし、これはデサンティスに思いの外焦点が当たらなかったことの裏返しでもある。当初彼に攻撃が集中すると予想されていたが、ラマスワミのスタンドプレイが顕著だったこともあり、デサンティスは思いの外目立たなかった。

 デサンティスは元々ティーパーティ派から派生したフリーダム・コーカスに即する最右派の連邦下院議員だったが、トランプに見いだされてフロリダ州知事に就任した。22年の再選を目指す選挙で圧勝して注目を集めたが、トランプへの支持が高止まりする中、支持が急落した。

 ペンスやクリスティほどの実績があるわけではないため、急落した支持を持ち直すのは極めて困難だ。中絶に対し厳格な態度を取ったり、性的少数者(LGBTQ)の権利を限定するなどの文化戦争を推し進め、フロリダ州に拠点を置くディズニーと対立などしているが、この手法を今後続けられるかは不明だ。

 次回の討論会は9月に予定されている。場合によると新しい候補が登場するなどして状況が変わる可能性もあるが、各候補の動向に注目する必要があるだろう。

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