2024年11月22日(金)

INTELLIGENCE MIND

2023年9月4日

 40号室の最初の仕事は、海底ケーブル敷設船「テルコニア」でオランダ沖まで出て、ドイツ側の海底ケーブルを引き上げては切断し、ケーブル通信を使えないようにすることであった。その結果、ドイツ軍は無線通信に頼ることになるが、無線だと比較的容易に傍受が可能となり、40号室は戦争中に1万5000通以上に及ぶドイツの通信を傍受・解読することになる。

 1917年1月16日、ドイツのアルトゥール・ツィンメルマン外相はメキシコとの密約を記した暗号電報を駐メキシコ大使エッカルトに通知した。内容は、当時中立であった米国が対独参戦する場合、メキシコは直ちに対米参戦し、その見返りとしてドイツは米国のテキサス州、ニューメキシコ州、アリゾナ州をメキシコに割譲するというものであった。

米国の参戦招いた
ドイツの一大失策

 このツィンメルマン電報は暗号化され、中身を知る由のない米国によって、ベルリンの米国大使館から米国務省のケーブルで英国を経由しワシントンに送られた。英海軍の40号室は、抜け目なくこの通信を盗読していたのである。

 ツィンメルマン電報は翌17日に解読されたが、問題はこの解読文をどのようにして米国側に伝えるかであった。40号室が米国のケーブルを盗読して情報を得たことをどうごまかすのか、といった問題が横たわっていたのである。

 英海軍情報部長ウィリアム・ホール提督は、ツィンメルマン電報の解読文を金庫に保管したまま、それを米国側に知らせるタイミングを計っていた。まず英国のスパイがメキシコでツィンメルマン電報の写しを入手したことで、盗読の問題は解決した。そこで2月23日、英国のアーサー・バルフォア外相は、ロンドン駐在の米大使、ウォルター・ペイジに対して正式にツィンメルマン電報を提出したのである。

 電報の内容に憤慨したウッドロー・ウィルソン米大統領はAP通信に情報を流し、3月1日の朝刊各紙にはセンセーショナルな見出しが躍ることになった。当初世論はこの内容に懐疑的であったが、3月3日にツィンメルマン自身が記者会見の席上で電報は本物だと認めてしまったのである。これはドイツ側の一大失策であった。

 自国領土が隣国メキシコの脅威に晒されていることが明らかになった上、そのような共謀が米国のケーブルを介して行われていたことは、米国政府のみならず、世論にも激しい衝撃を与えた。もはや米国が中立を維持する理由などなくなったのである。

 こうしてウィルソン大統領は4月2日、議会での歴史的な演説とともに第一次世界大戦への参戦の決意を固めるに至ったが、これは40号室が描いた筋書きそのものだったのである。

 この事実は、55年に元40号室の情報部員であったウィリアム・ジェームズ海軍大将が、元上官のホール提督の伝記を執筆するまで世に知られることはなかった。さらに英国政府がツィンメルマン電報の解読資料を公開したのは、なんと88年後の2005年になってからのことである。

 そのため日本の学校教科書でも、米国が第一次世界大戦に参戦した理由については、1915年の英国客船「ルシタニア」号がドイツ軍のUボートに撃沈され、多くの米国人が巻き込まれたと説明しているが、これは間接的な理由だったといえるだろう。

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Wedge 2023年9月号より
きしむ日本の建設業 これでは国土が守れない
きしむ日本の建設業 これでは国土が守れない

道路や橋、高層ビルに新築戸建て……。誰もが日々、当たり前のように使うインフラや建築物にも、それらをつくり、支える人たちがいる。世は「働き方改革」全盛の時代─。その大波は建設業界にも押し寄せる。だが、目先の労働時間削減だけでなく、直視すべきは深刻な人手不足や高齢化、上がらぬ賃金などの課題だろう。インフラや建築物は、まさに日本の「機能」であり「国土」そのものでもある。“これまでの”当たり前を、“これからも”続けていけるのか─。その分水嶺にある今、どのようにして国土を守っていくべきか、立ち止まって考えたい。


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