2020年大統領選投票結果めぐり、民主党バイデン候補の当選を否認する当時のトランプ大統領に副大統領として異議を唱えたペンス氏さえも今回は、仮に有罪判決を受けてもトランプ氏が共和党の指名レースを制した場合、支持投票する姿勢を明らかにした。
居並ぶ他の候補と同様、今後の指名獲得レースで、強固なトランプ支持層を敵に回すことを危惧したものだ。
トランプ批判で異端を放つクリスティ氏
これに対し、とくにクリスティ候補の徹底した異端ぶりは際立っている。
今回の討論会でも、これまでトランプ氏が4度も起訴されていることに関連して、有罪判決となった場合のトランプ候補支持を拒否しただけでなく、8人の候補の中でただ1人、拒否理由として「起訴容疑の当否はともかく、トランプがこれまで行ってきた行為自体、合衆国大統領職にもとるものだ」とバッサリ糾弾した。
「トランプは徹底した自己中心主義者、自己没頭主義者であり、われわれ米国民のことなど、これぽっちも考えていない(He doesn’t give a damn about American people)」と激しい個人攻撃にも及んでいる。
こうしたことから、トランプ候補が討論会をあえて欠席した最大の理由も実は、〝目の上のたんこぶ〟的存在であり、論客として知られるクリスティ候補の直接攻撃をかわすためだったとみられており、トランプ氏のクリスティ氏に対する嫌悪ぶりを裏付けている。
トランプ候補は、欠席した討論会とちょうど時間がぶつかるように放映された「Fox News」TVインタビュー録画番組で、自分の意に沿わない何人かの有力者を批判したが、討論会出席者8人の大統領候補のなかではクリスティ氏だけを名指しした上で、「彼の出馬目的は〝トランプたたき〟以外にない」「残忍な狂人であり、言うこともクレイジーだ」「どんなにわめいてみても、支持率はどん底だ」などと厳しい口調で個人攻撃する場面もあった。
これに対し、クリスティ氏は少しもひるむことなく、「トランプが今回、出馬した唯一の狙いは、当選後、大統領権限で有罪判決を覆し、自分を特赦することにある」「出馬以来、選挙資金目的で何百万ドルもの政治献金を集めているが、すでにその大半を4件の起訴にともなう個人的弁護費用に充てており、有権者に対する背信行為だ」などと逆に激しくかみついた。
かつては盟友だったが……
そのクリスティ氏はもともと、地元ニュージャージー州の弁護士、検察官として地道にキャリアを積み上げ、2010年から18年まで2期州知事を務めた。この間、全米知事会会長などに就任して知名度を高め、16年大統領選予備選にも一時名乗りを上げたこともある。しかし、思ったほどの支持が広がらず断念、その後はトランプ候補支持に回り、各地の遊説先でも熱弁をふるうなど、トランプ陣営の有力参謀の一人となった。
同年11月、トランプ氏当選後、「政権移行チーム」最高責任者となったことから、トランプ政権発足後は、ホワイトハウス首席補佐官の要職を自ら待望していたともいわれる。
結果的に、クリスティ氏は大統領側近としてのホワイトハウス入りは実現しなかったものの、その後も、在野に身を置きつつ、トランプ氏の有力助言者の一人として同政権を擁護してきた。
しかし、二人の友情関係はそこまでだった。転機は、2020年大統領選後に訪れた。
クリスティ氏は、トランプ氏が虚偽の「選挙の巨大不正」を理由に自らの敗北を拒否し続け、熱狂的支持者らに呼びかけ「連邦議事堂乱入・占拠事件」を引き起こしたことをきっかけに、一転して「アンチ・トランプ」の論客に転じ、今日に至っている。