2024年5月16日(木)

バイデンのアメリカ

2023年9月6日

 この間、共和党保守派政治家としてのクリスティ氏の立場と主張は、一貫している。それは、かつてのレーガン大統領に象徴された「小さな政府」「軍事力強化」「同盟関係重視」「法と秩序」「自由貿易推進」を標榜する伝統的共和党思想に支えられたものだ。

 クリスティ氏が、ウクライナ戦争について、米国主導による積極的経済・軍事支援を呼びかけ続けているのも、ロシアのような専制国家に自由主義世界が結束して果敢に立ち向かうという〝レーガン共和党〟の理念を忠実に受け継いでいるからにほかならない。

 これと対照的なのが、トランプ氏の主張だ。

 トランプ氏はかねてから、ウクライナ戦争に対する「際限ない援助の再検討」を主張し、同盟関係についても、北大西洋条約機構(NATO)および韓国からの米軍撤退を示唆してきた。経済政策面でも、国内産業保護のための対外輸入関税拡大、大規模財政支出など、民主党まがいの主張を繰り返し今日に至っている。

 その結果、トランプ氏に牛耳られた今日の共和党も本流から大きく逸脱し、〝トランプ党〟に成り下がったとさえいわれる。

「共和党の良心」巻き返しなるか

 今のところ、共和党内での支持率が50%前後のトランプ氏に対し、クリスティ氏はひとケタ台にとどまっている。先の討論会でも、トランプ攻撃に対し、会場から激しいブーイングが浴びせられた。今後も巻き返しは困難と見られ、最終的に指名獲得の可能性は皆無に近い。

 しかし、もともと同氏の今回の立候補の目的そのものも、伝統的共和党主義者として、民主主義の柱である「法の支配」重視の立場に立ち、万難を排してでもトランプ再選を阻止する点にあったされており、実際、これまでの遊説でも、その大半をトランプ批判に割いてきた。

 それだけに、今では党内数少ない「共和党の良心」の一人としての存在意義は過小評価できず、同氏が指名獲得レースに踏みとどまる限り、これまで同様、米マスコミに話題を提供し続けることになるだろう。

 また同時にそれは、政治の世界も、「独善」ではなく「多様」であるべきことの大切さを改めて想起させてくれるものになるはずだ。

   
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