一方のプーチン政権も、ウクライナ支援を続ける米国、日本、韓国にとって脅威となる北の核ミサイル開発に真っ向から反対することはなくなった。むしろ容認する姿勢さえ示し、昨年10月に北が日本上空を通過するミサイルを発射した直後に行われた国連安全保障理事会の緊急会合で、ロシア代表は「(日米韓の)短絡的で敵対的な軍事行動がミサイル発射を招いた」と、北朝鮮を擁護した。
昨年12月には北への石油輸出を再開させた。国連のデータによると、ロシアは北朝鮮に今年4月までに6万7300バレルの石油精製品を輸出したこともわかっている。
北朝鮮の経済規模は極めて小さい。そして、旧ソ連製の兵器を使っている北はロシアに武器・弾薬を供給できる数少ない国とも言われる。
米国は再三にわたり、北がロシアへ武器を供給していると警告してきた。仮に2億5000万ドル(約355億円)相当の売却があったとしても、北の国内総生産(GDP)の約1%に相当する。孤立している北朝鮮にとっては、貴重な外貨獲得手段となる。
今年7月に平壌で朝鮮戦争休戦70周年記念式典が行われた際には、プーチン大統領は、右腕であるショイグ国防相を平壌に派遣した。金総書記は外国人として初めて個人の執務室にショイグ氏を迎え入れたとされ、ショイグ氏も北は「ロシアにとって重要なパートナー」として、「われわれは共通の国境と豊かな協力の歴史によって結びついている」とほめたたえた。
ショイグ氏が帰国した後も交流は続いた。モスクワから露空軍のイリューシンIL-62M機が直行し、平壌国際空港に約36時間止まっていることが確認されている。また米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、別のロシア当局グループが北を訪問していたことを明かしている。
ロシアと北朝鮮は両政権幹部の事務方が緻密に下交渉を重ね、満を持して、首脳会談の実現へと導いたのである。
さらなる関係性発展の可能性
2度目の首脳会談は数時間に及び、公式晩さん会へと移った。ロシア側はカムチャッカ半島の特産物であるカニを材料にした水餃子「ペリメニ」やキャビアなどのコースでもてなした。
金総書記は会談で、「わが国にとって最優先事項はロシアとの関係だ」と言った。さらに、米国や日本などを念頭に、「われわれはプーチン大統領とロシア指導部の決定を常に支持し、帝国主義との戦いで共に戦っていく」と強調した。
北にとって長引く制裁網とコロナ禍のダメージから脱出するにあたって、外貨や食料、エネルギー資源を得られるロシアとの関係強化は渡りに船だ。しかも、北が懇願する形でロシアに接近したのではなく、むしろ、プーチン政権が北への政策を転換したことで、向こうからすり寄ってきたのである。
プーチン大統領は会談後、露国営メディアレポーターの直撃取材を受け、「金総書記とは心を開いて意見を交換し、二国間関係だけでなく、地域の問題について話しあった」と語った。
さらに、ロシアは国連決議の対北制裁を解除するのかと質問を受け、「ロシアは軍事協力面での国際義務を遵守する。しかし、ルールの範囲内で可能性はある」「ロシアは国連安保理理事国の一員であり続ける。そして、一方で、全ての分野で北朝鮮との関係を発展させる」と述べた。