ウクライナ戦争で関係が180度転換
昨年2月に始まった「プーチンの戦争」は、21世紀の国際社会に大変化をもたらした。中立政策を取っていたスウェーデン、フィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟の動きや、ドイツの国防費増額、日本とロシアの平和条約交渉の中断などがそれにあたる。
今回のロシア・北朝鮮の接近も同様で、まるでオセロゲームで白から黒へ、黒から白に変わるような地政学的な180度転換と言えるだろう。
これまでロシアは、国連の制裁下にある北に深くコミットすれば、自国の経済に大きな痛手をくらうため、あえて積極的に「火中の栗」を拾ってこなかった。
プーチン政権はかつて、北の核開発についても欧米と足並みをそろえ、非難する立場になったこともある。極東ウラジオストクで金総書記と初会談を行った2019年4月の際も、「直接会談を果たしただけがプラス」(露専門家)であり、ロシアは北が期待するような援助を約束することもしなかった。金総書記はあまりにも冷淡なプーチン大統領の態度に不快感を抱き、日程の途中で予定を繰り上げ帰国したとの情報もある。
21年6月の際も、プーチン大統領は会見で北の核ミサイル開発問題の解決策について問われ、多国間での経済協力の推進を糸口とすることを提唱しており、この時も深く関与したりはしなかった。
2度目の会談で、プーチン大統領が格下にある国家元首にこれほどまでに厚遇したことは、状況が全く異なっていることを如実に示している。
一方で、ロシアにとって9月は「アジア外交の季節」であり、「東方経済フォーラム」が行われるウラジオストクは、日中韓や他のアジア諸国と関係性を深める舞台として使われた。領土問題を打開しようと、プーチン大統領は安倍晋三元首相とも頻繁にウラジオストクで会談を重ね、日露関係の命運はこのウラジオの会談成果がカギを握るといっても過言ではなかった。
それが、ウクライナ侵攻が始まり、情勢は一変した。まさかこの極東の舞台が、今度は日本に刃を向けるホットスポットになりかねない場所に転化したことは、歴史の大いなる皮肉といえまいか。
ロシアは、自国への制裁強化が促進されることも計算ずくで、今回、北と接近したことを考えれば、今後、ロシアからの軍事協力の度合いが増し、北東アジア全体の安全保障環境が著しく変化していく事態も想定しなければならないだろう。
互いに距離を詰めていった両国
今回の急接近は、ウクライナ大規模侵攻開始以降に、両国が徐々に距離を詰めていった、緻密な外交戦術の成果とも言える。
侵攻開始5日後の22年2月28日、北の外務省報道官は声明を出して「他国への強権と専横を日常のものとしている米国と西側の覇権主義政策に根源がある」と旗幟を鮮明にし、米国に責任があると主張した。
北はその後、国連総会などで提議された対露非難決議案にも全て反対の立場を取った。そうした中で、金総書記は昨年10月7日のプーチン大統領の70歳の誕生日にあわせ祝電を用意し、「地域の平和と安定を守り、国際的な正義を実現するための戦いで両国の相互の指示と協力がかつてないほど強化されている」と雨天の友になり得るとラブコールを送って見せた。