2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2013年9月18日

明瞭な語り、身振り手振り、暗記…
日本の「決意」のあらわれ

 さて、IOC総会で東京招致にむけてのスピーチをされたみなさんは、私がラテン語の授業で習った雄弁であるための5つの原則、すなわち(1)inventio(聴衆をよく説得できる立論を見つけること)、(2)disposito(より説得力を持つよう演説を構成すること)、(3)elocutio(よい表現とスタイルを用いること)、(4)memoria(暗記して話すこと)、(5)actio(聴衆に訴えかける身振り手振り、イントネーション、リズムを用いること)に則って話されていた。全ての登壇者が簡潔で分かりやすく教養あふれる立論やスタイルを用いはっきりと話され、豊かな表情と身振り手振りで聴衆の心をつかんだと思った。

 例えば、安倍首相がスポーツ精神の世界的向上のためにボランティア組織を作り3000人もの若者が80カ国以上にスポーツインストラクターとして派遣されたと演説の後半に述べられたのは、日本が東京招致だけではなく世界でのスポーツ振興を長期的に支援する決意を示した点でinventioやdispositoの良い例だった。また、Tokyo is one of the safest cities in the world, now, and, in 2020.とゆっくりと明瞭に語られたところや, “choose Tokyo today”の前後の部分で豊かな身振り手振りを用いられた部分などはそれぞれelocutioやactioの良い例だと思う。

 さらに、安倍首相が福島のことを冒頭に語られたときは、古代ローマ人がスピーチの冒頭でexordium(聴衆の注意をひきつける導入部)を用いていたことが頭に浮かんだ。例えばキケロが、元老院での演説の冒頭部で「みなさんに大変重要なお知らせをしなければならない。ローマでクーデターを起こそうとしている人間がいる。そしてその人物はいまこの部屋にいる」と、事前に入手したCatilinaのクーデター情報に基づいて話し、彼のたくらみを見事に阻止した例などが思い起こされる。

 また、東京招致委員会代表の演説で印象的だったのは、演説者全員がスピーチを暗記されていたことだった。外国語でのスピーチを暗記するための時間と努力に思いをはせると、彼らの招致作業への深いコミットメントと固い決意とが感じられた。また、全ての演説者がゆっくりと時間をかけて聴衆を見て微笑みながら説明していたことも忘れてはいけない。安倍首相が福島はunder control でありnever done and never will do any damage to Tokyoだとおっしゃった場面などは特に印象的だった。


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