2024年6月17日(月)

Wedge REPORT

2023年10月12日

 教育は国家の根幹であることから、国は教育の質の地域格差等が生じないよう、義務教育費国庫負担制度などさまざまな制度を設けて財源の保障をしている。極端な言い方をすれば市町村は財源の心配をせずに教員を雇い、「校務」という形で都合良く使えるわけだ。

 こんな例がある。ある市では、コロナ禍による一斉休校時に学童保育施設で子ども達を預かることにした。

 もちろん保護者は大歓迎である。しかし、学童というのはもともと放課後に実施するものだから、昼間から預かるには人手が足りない。そこで市は学校の教職員を活用することにした。

 学童保育は文部科学省ではなく厚生労働省が管轄であり、当然教員の業務にはなり得ないものだ。もちろん、コロナ禍という緊急事態であるから先生達は子ども達のためと文句も言わず対応した。繰り返すが自分たちの都合で業務を増やしておいて、自腹を切らずに教員を利用し、他方ではミスをしたら賠償請求しますでは正直教員などやっていられない。

過度な政治介入

 だが、もっと大きな問題は、今回の事案が政治の教育への関与の逸脱を浮き彫りにしていることだ。例えば、川崎市の福田市長が「高額でかわいそうだとか、教員不足に拍車をかけるのではないかという話と、責任を誰が負うのかというのは全く別の話だ」と前面に出て強く反論をしているが、これは市長が言うべき話ではない。

 すでに服務監督者の市町村教育委員会が方針を出しているのだから、「教育委員会の判断を支持する」だけでよいはずだ。本来、首長の教育への関わり方はその程度に止めるべきである。

 しかし、十数年間の間に一歩間違えば「教育の不当な支配」を疑うような首長の発言が増えてきている。たとえば、静岡県の川勝平太知事は2013年、全国学力テストでの結果が悪いのは先生の責任であるとして、下位100校の校長名を公表すると述べた。

 これは学力テストのルール違反であるし、そんな権限が知事にあるはずもない。これは後に成績優秀校の発表に一転するのだが、こうなるともう訳が分からない。

 また、大阪市の松井一郎市長(当時)は21年4月、十分な通信環境を整っていないにもかかわらず、緊急事態宣言が発出された場合には市立小中学校は休校とせず、原則としてオンライン授業を実施するという方針を出した。市長がこうした方針を出すことにも筆者は違和感があり、学校現場の苦悩を顧みずに人気取りしているとしか見えない。

 当然そう思った校長がいて、市に改善を求めたところ、市はその校長を文書訓告処分とした(その後、この校長は訓告は不当だとして大阪弁護士会に人権侵害救済を申し立てた)。これについて松井市長は、「決められた仕事をしていなければ処分されます」などと脅しともとれる発言をしている。

 これには専門家もさすがに「意見を表明した校長が訓告に処されたことは著しく正当性を欠く」、「教育行政への信頼を失墜させている」と警鐘を鳴らしている。

 こうした首長の教育関与の変化の背景には06年の教育基本法改正をはじめとする教育関連法案の改正により教育制度が根本から大きく変わったことがある。それを詳しく解説するスペースはここにはないが、少なくとも教育は不当な支配に屈してはならない。

 プールの管理が教員を萎縮させ、職務よりも校務をこなすことに精一杯になり、日本の教育をさらに衰退させるようなことがあってはならない。

参考文献
学校プールの水張りって先生の仕事なの?(東京新聞)
令和5年8月10日川崎市報道発表資料
NHK横浜放送局HP
文部科学省資料
小学校プールの水出しっぱなしで教諭に賠償請求 抗議100件も…川崎市長が見解「かわいそう、教員不足になるというのと責任は別の話」
「プールの水出しっぱなし」川崎市が小学校教員に「95万円の損害賠償請求」…教員は支払わなければならないのか?【弁護士が解説】(yahooニュース記事)
義務教育費国庫負担制度の存廃をめぐる論点 (ベネッセ総合教育研究所)
平均点以上の校長名公表 静岡県知事、下位校発表意向から一転(日本経済新聞)
松井大阪市長批判の小学校校長に市教委が文書訓告(週刊金曜日オンライン)
「物言えば唇寒し」でよいのか…松井市長批判し訓告の元校長が申立書(朝日新聞)

   
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