2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2013年9月26日

――東京オリンピックで東洋の魔女が見事金メダルを獲得します。しかし彼女たちの夢が選手を引退し、主婦になることであったと本書に書かれており、正直ちょっと腑に落ちない部分がありました。

新氏:当時の女性たちにとって主婦になるというのはひとつの夢で、目指すべき目標でした。なぜかといえば、ひとつには女性は大体何歳までに結婚し、出産するというような「女性がどう生きるべきか」という目安が、現在より明確にありました。社会学ではライフサイクルという考え方があり、人生を8つの段階に区切ります。その各段階では何歳から何歳の間までに、何々をやるべきだという社会的圧力があり、その役割をこなしたら次の段階へ行く。たとえば、青年期では親の庇護のもとに学校へ行き、悩みながらも人生最大の壁を突破し、青年期を乗り越える。その次の段階では育児をし、それが終わると老年期に入る……。そういったライフサイクルが現在より明確だったんです。

――世間一般に明確なロールモデルがあったと。

新氏:そうです。また主婦になることは憧れでもありました。ちょうどこの時代に3DK、4DKといった「nDK」という発想にもとづく間取りの団地が登場します。そこでは真新しい冷蔵庫を始めとしたキッチンや普及し始めたテレビが置かれた居間を、女性がマネージメントするものとして位置づけられます。生まれ故郷から離れ、辛い生活が続くと思っていた都会で、そうした新しい宝物のような空間を手にするというのは憧れであり、夢だったと思います。

 そういった当時の女性たちの夢と、今まで「結婚」を犠牲にしてバレーボールに打ち込んできた東洋の魔女たちが、東京オリンピックでメダルを獲って引退し、主婦になる、という夢が重なり、物語を共有していたためにあれほどまでに盛り上がったのではないでしょうか。

――翻って、現代の女性たちには明確なロールモデルがないように思います。

新氏:明確にはないですよね。現代の女性は、生殖的テクノロジーの発達により高齢出産が可能になり、結婚も出産も働くことも同時にこなすことを期待され、それらを全てを手にしようとすればできる状況です。また「美魔女」という言葉に代表されるように、いくつになっても男性から女性として見られなければならないというプレッシャーもある。そうしたことをすべて求められるのは酷ですよね。真面目な女性であればあるほど、そうした多重化した役割を同時にこなさなければならないと考えてしまうでしょう。

 そういった生き方は多くの女性にとって辛いものであるにもかかわらず、そういう生き方を強いられているのが現代ではないでしょうか。

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