そのプロセスで札幌市は国際舞台での交渉において多くのことを学び、また地域の成長につながるさまざまな布石を打った。世界的にも稀な積雪都市として有名な札幌の交通環境を向上させた地下鉄(札幌市営地下鉄)開通や、地下街(さっぽろ地下街)の建設、真駒内地区の整備や市街の近代化など、インフラ整備に多大な貢献をしたと評価されている。
インフラ整備だけでなく、オリンピックの開催により知名度が世界的に向上し、国際化に貢献したと言われる。実は72年の札幌オリンピックはそれまでのオリンピックに比較してもブレークスルーだったのである。
もちろん2023年の現在は1970年代とは全く状況が違い、人口が減少する少子高齢化であり、長期的な地域デザインをどのようにするかを考えて何が発展への最適解かを議論する必要があるだろう。今回の冬季オリンピック誘致では、これからの子どもたちのためにというスローガンが唱えられていたが、実際、札幌の若者の多くが冬季オリンピック種目のスピードスケート、ジャンプ、スキー、アイスホッケーをしている訳ではなく、関心は薄い。ウインタースポーツ施設をオリンピックに向けて整備しても直接的にこれからの子どもたちに貢献できる程度は少ないであろう。
もっと広い視点で中長期の持続性を睨んだ地域戦略を考える必要がある。世界におけるアジアの国々のイメージは南国という側面が強いので、海外の顧客層に札幌・北海道の冬とウインタースポーツのイメージを刷り込むことは大きな差別化要因になりうる。その新たなブランドを世界に発信する(リブランディング)にオリンピックは有効な媒体である。
世界で生き抜くためのリブランディング
札幌と北海道は中長期的な街のコアが何になるかを模索中であるように見える。一つの基幹産業は食であり、これは今後さまざまなイノベーションや改革が必要であろう。もう一つは観光を含めたインバウンドになるだろう。
今後の観光は単純に数を求めるのではなく、地域住民の生活の質を維持・向上させる必要があり、そのために外部資源を取り込めるようなリブランディングが必要となる。未来志向で地域のブランディングを行うことは極めて難しく、札幌が未来志向の戦略を持ってリブランディングできるかは未知数である。
ここまで述べてきた各論点においてパラダイムを変革し、組織能力の改善・構築して開催することができれば札幌をフラッグシップに日本はソフトマネジメントの分野でこれからの世界をリードする存在になる。もし、そうした組織能力の構築が望めないのであれば札幌オリンピックを誘致するべきではない。しかし、その場合は、日本のどこかでこうした組織能力の構築が必要になるだろう。