また、進路決定にあたって生命に関する現場体験を求めることも必要だろう。米国の場合は、「プリ・メド」専攻を宣言して入学審査を受ける場合は、高校生として医療機関や救急隊におけるボランティア経験をしておくことが推奨される。職務内容は、ストレッチャーを押すなどの単純作業かもしれないが、生と死の問題を扱う人々の表情や現場の臨場感の体験にはなる。
そうした経験を通じて医療という難しい職業に関する自身のモチベーションを確認させる。そこで、本人が何を感じ、何を考えたかをエッセイや面接で問うことで、適性を調べることができる。
日本でも、それこそ東大理三の場合は、少し前から合格候補者全員に対して面接を実施しているが、その内容は公開されていない。戦後の長い期間、左右対立の中で政治的な争いの場となってきた東大医学部としては、選考の客観性を守ることが組織防衛の基本だという生存本能が働くのは理解できる。だが、少なくとも高校生の段階で医療現場のボランティアぐらいは求めておいても良いのではないか。もちろん、現場で受け入れが可能となり、高校側でも校則で禁止しないなどの制度改訂が必要となるが、真剣に考慮していただきたい問題だ。
東大の変革推進と周知を
ここからは推察になるが、東大医学部の現在の教授陣としては、そのような問題点については熟知していると考えられる。だからこそ、全学に先んじて受験生全員の面接を導入しているし、この面接に関しては全学化がされた現在では、理三の場合は更に内容を深めていると考えられる。また専門性を宣言した上での推薦入試も始まっており、医学部志望の学生も入っていると考えられる。
帰国生入試に関しては、2000年前後に全国の医学部が導入したが、その後、帰国生は日本の医学部の組織風土になじまないので「お互いが不幸になるから」ということで合格者は毎年若干名しか出ていない。だが、少なくとも帰国生入試に関して東大は全学レベルで粘り強く続けており、理三の門戸も開かれている。
改革は既に動いており、その背景には社会の変化、求められる人材像の変化がある。実際に多くの難関校と言われる私立大学では、系列校からの進学と推薦入試で過半数の進学者を決定しており、従来型のペーパー一発入試で入学する学生はもはや少数派という大学が多い。東大はそこまで進んでいないが、入試の内容が変化しているということには間違いはない。
であるならば、そのような変更について社会に対して発信してゆくことが必要だ。東大入試は科挙のような資格試験であり、合格することが「手段でなく目的」という悲劇的な勘違いが延々と続いているが、既に実態の半分は「そうなってはいない」のである。そのことをしっかり発信することで、時代の要請に応えられる素質を持った若者が志望してくれるよう、メッセージを明確にすべきと考える。