再エネによる自給率向上策
脱ロシアを進める主要国が進めているのが、洋上風力の導入です。今まで洋上風力の開発を積極的に進めたのは、風況と遠浅の海域に恵まれた英国、ドイツ、デンマークなどの北海、バルト海沿岸諸国でした。
陸上風力発電設備で世界市場を獲得した中国は、洋上風力設備でも市場獲得を狙い国内での設備導入を進めました。今世界の洋上風力設備の約50%は中国に設置されています。
北海との比較で風況に劣る米国も日本も洋上風力の開発に乗り出しました。 脱炭素の有力な電源の開発余地が少なくなり、相対的にコストが高く電気料金を引き上げる可能性が高い洋上風力も開発せざるを得ない事情がありました。
米国では、連邦政府が投資・生産税額控除を風力発電設備に認めていることも導入を後押ししました。
しかし、エネルギー危機は資機材価格の高騰を引き起こしました。その結果、大量の資材を必要とする再エネ設備の投資額は急増し、欧米で洋上風力発電設備の建設を進める事業者は、相次いで計画からの撤退、中止を発表しています(そして誰もいなくなる 死屍累々の欧米の洋上風力事業者 )。
違約金の支払いが、建設後に想定される赤字額を下回る計算が成り立つので事業者は撤退の道を選択しています。それほど資機材価格の上昇は大きなインパクトを与えています。
資機材価格の予見が難しい状況が続けば、太陽光、陸上風力を含め再エネ設備の投資への逆風が続くことになります。
原子力発電による自給率向上策
ロシアのウクライナ侵攻が大きく変えたのは、欧州市民の原子力発電の利用に関する世論です。エネルギー危機前原子力発電の利用に反対する比率は、EU27カ国の世論調査では41%でしたが、ロシアのウクライナへの侵攻後その比率は15%まで下落しました。
スウェーデン、イタリア、ポーランド、チェコなど多くの国が原発新設の意思を明らかにしています。
しかし、インフレはここでも影を落としています。米国で開発が最も進んでいるニュースケールの小型モジュール炉(SMR)1号機の建設を予定していたユタ州公営共同電力事業体は、プロジェクトの中止を発表しました。
資機材の値上がりがSMRの建設にも影響を与える可能性があり、中止に至ったと報じられています。
米国の専門家は、原子炉としては相対的に大きな量の鉄鋼とセメントが消費されるニュースケールのSMRではインフレの影響も大きいことを指摘しています。
加えて、SMRの設備は工場で生産されスケールメリットが大きいので、具体的な商業化の前の実証炉の段階ではコストが高くなる問題もあります。