イスラエル側は病院内の地下や病室などをくまなく捜索したが、ハマスの明確な痕跡を発見することができなかった。ただ敷地内に人が1人通れるほどの深い縦穴が見つかった。
深さ10メートルの縦穴はトンネルに通じており、50メートルほどその先には爆発物にも耐えられるように補強されたドアがあるという。ドアには爆弾が仕掛けられている可能性があり、犬なども動員してさらに詳しく調べる方針で、イスラエルはハマスの活動の証拠と主張している。だが、イスラエルの思惑に反して、ハマスが活動していた決定的な証拠をみつけることができず、掃討作戦は暗礁に乗り上げた。
軍事専門家らによると、ハマスの幹部や戦闘員多数がすでに北部から南部に逃走した可能性が高いという。衝突当初は北部に拠点があったのは事実のようだが、イスラエル軍がガザを南北に分断して侵攻作戦を加速させ始めた頃までに、ハマス側が裏をかき、南部に逃れたのではないかとみられている。トンネル網を使ったり、避難民に紛れて脱出を図ったりした戦闘員もいたようだ。
戦線の拡大は必至
イスラエル軍はシファ病院の入院患者や、病院に避難していた住民ら約2500人に退去を命じ、世界保健機関(WHO)によると、病院には現在、医療関係者25人と入院患者約290人が残っているだけだという。重体の乳児が30人以上含まれていたが、WHOの手で南部の病院に移送された。18日に短時間、病院を訪問したWHOの職員は「死の領域」と語った。
イスラエル軍がなぜ避難住民らの退去を命じたのかは明らかではないが、「ハマス戦闘員らが潜伏している可能性のある病院の地下を一気に吹き飛ばすためではないか」(中東専門家)との見方が出ている。
イスラエル軍の報道官は「ハマスの潜んでいるあらゆる場所に前進する。南部にもハマスはいる」などと述べ、ハマスの戦闘員らが南部に逃走したとの見方を間接的に認めた。イスラエル軍はこのほど、北部の難民キャンプにある学校を空爆、数十人を殺害する一方、南部ハンユニスの住宅を爆撃、28人が犠牲になった。
現地からの情報によると、イスラエル軍はハンユニス周辺で空からビラを撒き、住民に避難を呼び掛けているとされ、南部への進撃が近いとの観測を呼んでいる。イスラエルは北部を封鎖した際、北部の住民らを南部に移動させた。南部の国連施設などは数十万人の難民であふれ、食料、水などが不足し、衛生状態の悪化で伝染病のまん延も懸念されている。
一度強制的に避難させられた住民を再び移動させるようなことになれば、大混乱に陥り、人道危機はさらに深刻なものになるだろう。かといって破壊し尽された北部の住居に戻ることはできない。イスラエルは避難民の中に、ハマスの戦闘員が紛れているとみており、どのような攻撃に出るのか避難住民の恐れは募る一方だ。