国民党と民衆党の候補者一本化が不発に終わったのは結局、柯文哲氏を総統候補とすることで、国民党がまとまれなかったためとみられる。
総統・副総統候補のうち、総統が侯氏なら「侯柯ペア」、柯氏なら「柯侯ペア」と呼ぶ。国民党支持者の多数派は、民進党政権を倒してくれるなら、どちらのペアでも構わない。しかし、民衆党支持者は、国民党嫌いが少なくない。柯氏を総統候補とすれば両党の支持者の票を集めやすくなる。
馬前総統が提案した「世論調査」の結果で決める案は、事実上、世論調査では比較的優勢な柯氏を支持する意味と受け取られ、侯氏の総統候補辞退を迫る「不意打ち」として国民党内から強い反発が出た。
馬英九氏が率いるシンクタンク、馬英九基金会の幹部は、「不意討ちを気にするのに、民進党の下野を望む民意の方は気に掛けないのか」と述べて強く批判した。
元台湾大学医学部教授で前台北市長の柯文哲氏は、若者を中心に大衆的な人気が高い。しかし、同氏が率いる民衆党は、立法院では全国区を含めて10議席にも満たない小政党。国民党は野党とはいえ、4直轄市の市長、10県の知事、立法委員37人を擁する大政党。「柯侯ペア」に対して「小企業による大企業の吸収合併だ」などと党内の反発が強かった。
立候補届け出締め切り前日の23日にも、馬前総統に加え、電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手の鴻海精密工業(ホンハイ)創業者で、総統選に無所属からの出馬を表明していた郭台銘(テリー・ゴー)氏も加わって話し合いが行われた。
野党支持者は、最終的に一本化が実現し、24日午後5時の期限までに滑り込みで届け出が行われると信じていたが、全く期待は裏切られた。
民進党は副総統候補に「戦猫」
もたつく野党を尻目に、与党民進党の総統候補の頼清徳氏は20日、初の女性駐米代表だった蕭美琴氏を副総統候補にすると発表。21日にそろって立候補の届け出を行った。
蕭氏は1971年日本生まれ。母は米国人。1990年に民進党入りした。民進党の国際部主任や立法委員を歴任。蔡英文総統の信頼が厚く、2020年、駐米代表に就任した。この時に、中国の戦う外交官「戦狼」に対して、柔和だが台湾のためきっちり戦う姿勢から「戦猫」と呼ばれた。
蕭氏は駐米代表として、米カリフォルニア州で11日から開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の任務を17日まで完遂。20日に帰国して台湾外務省に辞表を提出し、21日に立候補を届け出た。
頼候補は20日の副総統候補決定の会見で、候補者一本化がなかなかまとまらない野党を皮肉り「立候補の届け出は、われわれが最後の一組になると思っていたが、思いもよらず最初の一組になってしまった」と語り、記者団が爆笑する一幕があった。