弟の死と真珠湾攻撃、合同コンサート
第10週「大空の弟」(4日~8日)に至って、脚本家の足立紳と櫻井剛によるドラマは、テレビ小説のみならずドラマ史に残る名シーンの連続である。1941(昭和16)年12月8日は日本がハワイの真珠湾を奇襲して太平洋戦争が始まった日だった。
花田鈴子(趣里)は大阪の梅丸少女歌劇団の福来スズ子の芸名で人気スターとなり、東京進出を果たしていた。銭湯を営んでいた父・梅吉(柳葉敏郎)が妻・ツヤ(水川あさみ)を病で失ったことから鈴子とともに上京する。
梅吉と鈴子は実は真の親子ではない。ツヤの友人が本意ではない妊娠をしたのを引き受けた。しかし、父母と鈴子との愛情は深い。
日米開戦を知らせるラジオと新聞の号外が人々を興奮させる直前に、梅吉と鈴子親子が住んでいた下宿に出征していた弟の六郎(黒崎煌代)が死んだという知らせがもたらされる。
「ブギの女王」と呼ばれるようになったスズ子も、作曲家・服部良一のモデルである羽鳥善一(草彅剛)がジャズをベースとしたリズムと派手なパフォーマンスを官憲ににらまれて歌と踊りがやりにくくなっていった。そこで、「福来スズ子とその楽団」を立ち上げるのだったが、舞台の要請はない。
羽鳥善一(草彅)が企画したのは、「ブギの女王」スズ子と「ブルースの女王」茨田との合同コンサートだった。
このために、羽鳥はスズ子のために新曲「大空の弟」を捧げた。ドラマの音楽を担当している服部隆之によると、この曲の楽譜が発見されたのは4年前。ただ、テンポもなにも書かれてはいなかったので編曲には苦労したという。
圧巻のコンサートシーン
スズ子と茨田との合同コンサートはチケットが完売。舞台に立った茨田はこうあいさつする。
「歌手は歌とともに生きています。この世がどうあろうと。絶望に包まれているなかでも生きること、そのことに変わりません」
茨田の第1曲目は淡谷のり子の「雨のブルース」である。「♬ 雨よ 降れ 降れ……」の歌いだしで知られ、数々の歌手によってカバーされている名曲である。
スズ子が舞台に立つ。「大空の弟」である。ブギウギ調ではないピアノ伴奏のみの静かな曲である。