弟六郎からの手紙を引いて、「〇〇隊にて 六郎より」と1番を歌い上げる。ラジオや新聞で六郎の部隊名を探している自分を歌う。
そして「〇〇〇部隊」「〇〇方面」「〇〇隊」……「〇〇〇ばかりではわからない」と切々した歌詞に移る。さらに、姉の自分からの手紙で弟を安心させようと何不自由がない生活を送っていることを告げる歌詞が続く。
「〇〇」「〇〇〇」とは、戦時中の機密を守るために部隊の居場所を伏せるためのものである。
「大空の弟」を歌い上げて、スズ子はマイクの前で倒れ伏して涙を流す。
楽団の指揮をとっていた羽鳥(草彅)は「福来君、しっかりしなさい」と声をかける。
マイクの前に立ち上がったスズ子は、息を整える。
伴奏はガラッとかわって「ブギウギ」調である。笠置シズ子の戦前の大ヒット曲「ラッパと娘」である。
「大空の弟」のコンサートシーンは、テレビ小説の歴史のなかでも名シーンとして刻まれると思う。筆者が何度も繰り返し観て、そのたびに涙がこぼれそうになった。
〝実力派〟がその力を見せる時
ヒロインの趣里についてふれたい。「俳優の水谷豊と俳優にして元人気アイドル『キャンディーズ』の伊藤蘭の娘」と芸名の頭に書かれることが多い。それは事実ではあるが、実力派の女優の階段を一歩一歩登ってきたのである。
映画「おとぎ話みたい」(山戸結希監督、2013年)では高校の教師にあこがれる可憐な少女を演じて、映像界を驚かせた。「生きているだけで、愛。」(2018年、関根光才監督)では、全裸で舞うというシーンを魅せた。この作品によって、日本アカデミー新人賞を受賞している。
第11週「ワテより十も下や」では、日本随一の演芸会社・村山興業の御曹司で学生の村山愛助(水上恒司)とスズ子の恋物語も始まった。2人の行方は今後も目が離せない展開になっている。(文中敬称略)