実際、著者の知人経営者は、過去に「ペヤングタワー」なる宣伝企画を仕掛けて話題をさらった。突如、足柄パーキングエリアに7メートルの「ペヤング」のタワーが出現するというもので、当初から、個人が写真を撮って拡散されることを見込んだ仕掛けだったという。
やはり、この仕掛け人の経営者が言うにも、話題になるのは「社会とズレたとき」であり、当たり前のことをやっても話題にならないということを強調している。
このようにあらゆる商品やビジネスについて、SNS時代ならではの「バズ」の演出によって、広告費を著しく削減しながら最大限の効果を上げていくことが可能なのである。
リアルではないが派手な演出ばかりで面白い!
テニスの王子様においては、他にも、
「強烈な打球によって、相手を観客席まで何度も吹っ飛ばす」
「打ち合いの中で相手の五感を奪い、暗闇の世界へといざなう」
「馬に乗ったままの状態でのテニス勝負を宣告される」
などなど、ツッコミが止まらない怒涛の展開が連続する。
筆者自体も周囲への話題に上げざるを得なく、まんまと術中にハマったものだと痛感させられてきた(笑)。
大好きなテニスというテーマの漫画を、うまく描いてくれていて嬉しい! という開始当初からの好きの感覚が、時間が経つにつれ、リアルではないが派手な演出ばかりで面白い! という別の好きの感覚に変わっていった。
同じ作品を違う形で好きになるという珍しい変遷を、辿らせてくれた数少ない漫画の一つなのである。
なお、同作品は、主要なキャラクターたちが細身高身長のイケメンばかりで構成されている。派手な必殺技と相まって、舞台化によって表現しやすいコンテンツだっため、テニスの王子様ミュージカル、「テニミュ」と言われる舞台が人気を博した。
マンガ・アニメを、現実の役者が舞台化するという、「2.5次元ミュージカル」という分野が広がっていったのもこの作品からなのだ。
さまざまな意味でのパイオニアとなった本作品は、もうじき連載25周年を迎え、続編と合わせて全体では80巻を超えている。
最後に、本作品と対極にある人気作をご紹介させていただく。過度なデフォルメ表現を抜きにした、現代テニスの「リアル」な世界を体験したければ、週刊少年マガジンで連載されていた『ベイビーステップ』(勝木光、講談社)という作品が、別の軸で非常に評価の高い、筆者のオススメ作品の一つである。