2024年12月5日(木)

MANGAの道は世界に通ず

2024年2月17日

 

『エースを狙え!』(山本鈴美香、集英社)以降、目立ったものに乏しかったテニス漫画という分野で、1999年から連載され、久しくブームを巻き起こしたのが『テニスの王子様』(許斐剛 、集英社)という作品である。

 開始当初から、魅力的なキャラクターと派手な必殺技の応酬で、あっという間に若者たちの話題をさらった。

 まるでブーメランのように球が曲がる「スネイク」や、全てを確率論で計算し尽くす「データテニス」などなど、連載開始当初から、現実にもあり得なくない「一見リアルな描写」が魅力を増していたのが事実である。

 だが、これらの表現は加速していく。

超人スポーツ的な漫画表現へと変遷

 テニスラケットを一発で粉砕する「波動球」、相手のスマッシュを無効化する「ヒグマ落とし」、全ての打球を自分のところに吸い寄せる「手塚ゾーン」など、これは流石に中学生がやるには無理があるのでは……? という、超人スポーツ的な漫画表現へと変遷していくのだ。

 筆者は当時、テニス部に所属し練習を重ねていた身として、こうした描写が増えていくことに少し切なさを覚えた。現実的な設定の中で、いかに表現を創意工夫していくかが、スポーツ漫画の醍醐味だと考えていたからだ。

 そういう意味では本連載でも取り上げた『スラムダンク』(井上雄彦、集英社)は、徹底的に「リアル」にこだわり描き切ったために、理想系の一つを果たしていたといえる。

 だが、ある時から見方が変わり、本作の作品としての秀逸さは、リアルさにあるのではないことを認識してきた。

 SNS全盛の現代においては、むしろ徹底的にマーケティングに向いた作品であるということを、身をもって痛感してきたのだ。

 この特徴的な本作品、実はSNS上で非常によくバズる、バズる。例えば、続編である『新テニスの王子様』(許斐剛 、集英社)においては、巨大化する能力を持つ敵が現れ、50メートルはあるかと推定される姿となり、コート上で打ち合うシーンが見られるのだ。

 そこでの味方サイドのセリフは、「デカすぎんだろ……」。見開き一面で、テニスコートに巨人が現れるシーンでのこのセリフには、「いやいやおかしいだろ!」「反応それで終わりかよ!」などと、ネット上でのツッコミが多々見受けられ話題となった。

 実は、SNS全盛の現代においては、このように「敢えて違和感のある部分を作り、ツッコミを待つ」というのが非常に重要になってくるのだ。

バズるパターンとは?

 バズるパターンにはいくつかあるが、日常からの「ズレ」を演出し、人々が話題に上げたくなる部分を持っておくのが定石の一つといえる。

 実際に作者は、インタビュー記事(『テニプリ』作者、“トンデモ展開”は読者ツッコミ待ち?「ONE PIECEに負けたくない」90年代ジャンプデビュー当時を語る、オリコンニュース)で、このように述べている。

「ツッコんでくださる方は私の術中にハマっています(笑)」

 そう、SNS時代の現代におけるマーケティングの要諦は、「ツッコミポイント」をいかに作っておくかなのだ。敢えて違和感を感じさせることだ。

 人々が共通して感じたこうしたズレに、「これおかしくね?」「いや~そうだよね!」と話題にしあい、盛り上がれる。

 画像や動画を気軽にシェアし、ワイワイとTwitterなどのSNS上で騒ぐことのできる現代だから、こうした演出により「広告費ゼロ」でコンテンツを広げることができるわけだ。


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