2024年12月26日(木)

MANGAの道は世界に通ず

2023年8月19日

『中間管理録トネガワ』(萩原天晴、福本伸行、橋本智広、三好智樹、講談社)

 本連載でも扱った人気作品『カイジ』(福本伸行、講談社)。『中間管理録トネガワ』(萩原天晴、福本伸行、橋本智広、三好智樹、講談社)は、同作からのスピンオフであり、『カイジ』における人気の敵役キャラクター、利根川幸雄を主人公としたギャグテイストの漫画だ。

 トネガワは、原作主人公であるカイジの最大のライバルであり、「帝愛」という消費者金融業界の最大手企業における、創業オーナーの右腕的な立ち位置にいる幹部だ。

 高度な心理戦を得意とし、知略の限りを尽くして毎回、カイジたちギャンブラーを追い詰める。圧倒的な知能の高さからカリスマ性が高く、人気であったがゆえに実現したスピンオフが本作品なのだ。

 同作が面白いのは、圧倒的な悪のカリスマだったトネガワが、帝愛という組織においては、王として君臨する兵藤和尊の下っ端にすぎないということだ。

ザ・中間管理職としての姿

 さらには原作のカイジに登場する、ギャンブルゲームを運営するマネージャーでもあり、スタッフの黒服たちを育成し、管理しないといけない立場でもある。最も苦労して疲弊する立場である、ザ・中間管理職としての姿が描かれているのだ。

 原作ではシリアスの極みだった、あのギャンブルゲームの裏側がこうなっていたのか!と、多々笑いを含みながら読み進められる良作だ。

 さて、2015年に連載が開始された本作であるが、一つのスピンオフ作とはいえなかなかに革新的で、業界にもたらした影響が大きい。

作画をしている筆者自体は原作者と全くの別人

 実は同作は、作画をしている筆者自体は原作者と全くの別人なのだが、見分けがつかないほど、同じ絵柄を採用しているのだ。スピンオフといえど、作者が変われば絵柄が変わるのが普通だったところ、これは大きな革新であった。

 言われなければ、原作者がそのまま描いていると確実に勘違いするほど似通っている。

 いわば「公式二次創作」といっても過言ではない。イラスト投稿サイトのpixivや、コミケでの同人誌販売などに見られるように、元々、クリエイティビティやデフォルメ力の高い日本人の気質は、二次創作の分野に非常に向いていた。

 ただし、職人気質の強い日本社会では、「この作品はこの作者のもの」と、作品と作者が一対一で結びついている傾向にあった。それゆえ、公式作品として別の作者が描くというのはタブーであったところ、慣例を打ち破り大成功した作品として、本作は革新的であったのだ。

 既にファンがついており、続編やスピンオフを見たいと思われているのは人気作品の常だ。顕在需要があるところに、必要なコンテンツを提供することで、ビジネスとしても手堅い収益を生み出すことができる(本連載でも扱った映画『THE FIRST SLAM DUNK』もその類型だ)。

 実際、この作品を契機として、似たような構造で生み出される作品が非常に増えてきた。世界的ヒット作『NARUTO』(岸本斉史、集英社)の続編であり、主人公の息子を主役に据えた『BORUTO』(岸本斉史、池本幹雄、集英社)が、別の作者により週刊少年ジャンプ本誌で連載されていたり、あの有名な『ドラゴンボール』(鳥山明、集英社)においても、脇役の「ヤムチャ」を主人公にした異世界転生ものが描かれるということがあった。

 ドラゴンボールに至っては、公式の続編である『ドラゴンボール超』(集英社)を、また別の作者であるとよたろう氏が描き、アニメや映画、グッズなどに大いに展開し、1000億円以上の売上をもたらしているのが印象的である。


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