2024年12月22日(日)

MANGAの道は世界に通ず

2023年8月5日

『島耕作』

『島耕作』(弘兼憲史、講談社)は1983年に連載が開始され、シリーズ累計4600万部を発行、連載期間は40年に渡るという長寿作品だ。

 初芝電器産業という架空の大手家電メーカーに、1970年に新卒入社した主人公の島耕作の活躍を描いており、大手企業のサラリーマンという立場で戦っていく姿に、共鳴したビジネスマンも多いだろう。

 元々は「課長」という立場から連載がスタートし、部長、取締役、社長に会長へとステップアップしていく姿が描かれた。

 後年には、新卒入社から間もない時代も『ヤング島耕作』という名でスピンオフ連載され、日本の高度経済成長とセットで、日本のサラリーマンや大手企業がどのように戦っていたかが見て取れる。

「インテグラル理論」の、ブルー段階

 本作品を読むことで、70年代から現在までの、日本社会を覆っていた雰囲気や空気感を掴み取ることができるのだ。そして、本連載で折に触れて紹介している「インテグラル理論」の、ブルー段階の意識、を分かりやすく描いている。ブルーとは、先般の連載で『北斗の拳』(武論尊、原哲夫、集英社)を用いて説明した、レッド(=暴力と支配の時代)、の次を行く意識段階である。

 レッドとはザ・体育会系の文化を表していたが、国が発展するにつれてこの「ブルー」段階へと精神性が成熟していく。

 日本では、幼少期から「他人に迷惑をかけないようにしなさい」「ルールを守りなさい、キチンとしなさい」という姿勢が、家庭内でも義務教育でも強く求められる。

 これは古くは、米国の文化人類学者ルース・ベネディクトが『菊と刀』(講談社学術文庫)で分析したような、恥の文化や、主君に尽くす武士道の精神、というところから主に来ている。これが国民の多くに啓発されるというお国柄が、日本ならではの特徴であり、世界的に見ても非常に特殊なのである。

 だからこそ日本人は、意識段階があっという間にブルーに到達するのだ。洪水や地震などの大災害の後でも、コンビニに略奪に入らずに丁寧に行列を作る。W杯の試合の後でも、日本の観客だけはキレイにゴミを持ち帰る。こうした姿が世界から感銘を受けられる背景に、「強いブルー段階の意識」があるわけだ。

 鉄道、建築、食品などの分野を中心に、世界的に見て高品質なサービスを提供し続けられるのはこれが理由だ。その分、「安かろう悪かろう」で成長を遂げる新興国の企業に、スピード重視で負けてしまうこともあるわけだ。


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