本書からは二つの問題が浮上してくる。
一つは、彼女たちの売春が入れ込んだホストに貢ぐためのものであること。これは、ホストクラブの高級シャンパンなどが1本数十万円と高く、客の女性たちが支払わないとホストの借金になるため、ホストが彼女らにさまざまな方法で売春を勧めるせいだ。ホストクラブぐるみの構造的な性搾取と言える。
もう一つは、女性たちの精神疾患。琴音と未華子はともに統合失調症でありASDだが残りの女性らも軽度の知的障害がある梨花から奇矯な言動が目立つ60代の久美まで、皆どこかにトラウマ(心の傷)を抱えている。
「高木さんは、彼女らのトラウマを愛着障害と呼んでいますね。子ども時代に親との間で虐待、無視、過干渉などがあり愛着形成ができなかった。その傷を成長してからも引きずっている?」
「ええ。女性の場合、愛着障害があると性的問題を起こしやすいんです。この本の女性たちは、愛情の依存先をホストに求めた。お金と交換の愛情でもいい、と思ってしまった」
「6人のうち、誰一人として過去に普通の恋愛を体験していないことが不思議ですね」
「普通の恋愛ができないんですよ。琴音もそうですが、約束を始終すっぽかすし、すぐ嘘をつく。非常に自分本位で移り気です。一般の彼氏は、そんな女性とはデートも恋愛もできません。面倒臭い女、で終わりです」
もっとも、最近歌舞伎町の街娼問題がメディアに続けて取り上げられたせいで、問題解決への動きも現れた。12月に新宿区はホストクラブ経営者らと連絡会を設け、24年1月から18、19歳の女性客の新規来店を断わり、4月以降はホストが料金を肩代わりする売り掛け金を撤廃すると表明した。
「これで公園界隈の街娼は減りますか?」
「取り組みの第一歩としてはいいでしょうね。ただ、ホストに貢ぐ女性は減っても、貢ぐ対象は他にもありますからね。メンコン(男性が接客するメンズコンセプトカフェ)やメン地下(イベントなどの地下アイドル)の推し活がもっと盛んになれば、ほぼ変わりがない」
高木さんの考えでは、この社会に生きづらさを感じ糊口をしのぐため街娼に立つ女性が皆無になることはない、と言う。
「ある程度の人数は残ります。そういう人を追い詰めたり排除したりせず、優しく許容することが大切だと私自身は思っています」
家族問題、DV、精神疾患、本当の原因を探る
それよりも優先すべきは、増加傾向を見せている女性たちの精神疾患の方である。
「メディアの鉾先は、ホストの売り掛け金問題一色ですが、本当に重要なのは女性たちの心の闇の部分です。なぜ、こんなに親子問題、家族問題が多発しているのか。早い段階で家族の問題に気付き、対策を考える手段はないのか。心の傷を負った後、身近に相談できる機関はどこにあるのか。そういったことを、もっと真剣に議論すべき時でしょう」
DV(家庭内暴力)に走る親自身がかつてのDVの被害者であったりと、この問題の根は深い。腰を据えた取り組みが必要なのだ。
最後に高木さんは、言い添えた。
「年明けからネットで、“障害と風俗嬢”を連載します。精神疾患の深刻さに気付いたので、そこをもっと可視化したいと思っています」