ツバメ、スズメ、カラス、ヒヨドリ、キジバトなど、都会に生息する身近な野鳥は「都市鳥」と呼ばれる。
彼ら都市鳥と人間との関係は時代と共に変わってきた。換言すれば、都市鳥の生態は「時代を映す鏡」とも言える。
『都会の鳥の生態学 カラス、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』(唐沢孝一、中公新書)は、そんな身近な鳥たちの、最新の、知られざる逞しい生き方を紹介する。
「唐沢さんは、都立高校の生物教師だった1982年に『都市鳥研究会』を作って代表になられた。それから40年経って、現在80歳の傘寿。今年は節目の年なんですね?」
「はい。これまでカラスやスズメ、個々の都市鳥の本を書いてきましたが、40年は一つの区切りだから、都市鳥全体の現状と生態を一冊にまとめてみたいと思ったんです」
唐沢さんが都市鳥に興味を持ったのは1960年代後半のこと。東京都へ転勤となり、都立両国高校の教師になった時である。
コンクリートに囲まれた中での子育て
高校は錦糸町(墨田区)のビル街の中にあったが、コンクリート製の建物に囲まれた中庭で、ヒヨドリとキジバトが子育てをしているのを見たのだ。すでに野鳥研究を始めていた唐沢さんにとっても意外な発見だった。
「当時、都市は公害と騒音で鳥には棲みにくいと言われていました。けれども、そうじゃない。人間が考えるより、鳥にはずっと棲みやすい場所だったんです。それがわかって俄然、都会に暮らす鳥に興味が湧きました」
本書によると、戦後しばらくは食糧難の時代が続き、野鳥の受難時代だった。空気銃やカスミ網で身近な鳥が捕獲され、人に食べられていたのである。それが変化し始めたのは、生活が落ち着いた60年代以降だった。
1960~70年代、キジバトやヒヨドリなどが都市への進出を果たす。
1980年代、チョウゲンボウなどの小型猛禽類やコゲラも進出。郊外に退いたカワセミがUターンした。
2000年代、大型猛禽類のハヤブサ、オオタカが都市で繁殖を開始する。
激減したツバメの営巣場所
「冒頭はツバメですね。軒下や家の中で巣作りをして、人間との仲がもっとも密接な鳥?」
「春になると南方から渡ってくる夏鳥ですが、長く続いた水田稲作の時代に、害虫を食べる益鳥だからと大切にされたんですね」
ただし、都心では生活環境が激変した。日本家屋が急速に減って、東京駅周辺では営巣場所だった国鉄本社ビルや東京中央郵便局などが超高層ビル街へと変貌した。
東京駅周辺の営巣場所は44カ所(1985年)から1カ所(2022年)へと激減。
「ツバメの集団ねぐらも変化したようですね。都市隣接の河川のヨシ原が主なねぐらですが、高速道路SA(サービスエリア)のケヤキなども利用するようになった?」
「ええ。ですが、営巣地は都心部から周辺都市に移った可能性があります。私の自宅は千葉県市川市ですけど、市川では市街地で減り、郊外で増え、ツバメの生息数がほとんど変わっていませんでした」