2024年11月21日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2023年12月30日

 警視庁によると、2023年1月から11月20日までに新宿区立大久保公園付近で客待ちをしたとして、若い女性ら126人を売春防止法違反容疑で逮捕。うち約4割が「ホストクラブに通うため」と答えたという。

 秋以降、コロナ後に人出の戻った新宿・歌舞伎町で、悪質ホストクラブに売り掛け金(ツケ)を背負わされ、女性客が売春する事例が相次ぎ、新たな社会問題となっている。

 この問題に早くから気付き、23年7月に『ルポ新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)を刊行したのが、著者の高木瑞穂さんだ。

 愛知県出身の高木さんは2006年頃、30歳目前でフリーライターになった。

「事件をベースにした風俗もの」を得意分野とし、歌舞伎町の路上売春の関連では、写真週刊誌『フライデー』に、話題となった現役女子高生の立ちんぼ出現(12年4月)や、街娼の仲間割れリンチ殺人事件(14年5月)などの記事を書いてきた。

通常の取材ではわからない日常

「そんな大久保公園界隈の街娼の話を、今回一冊にまとめようと思った理由は何ですか?」

「最初は断わるつもりでした。インタビューや行動観察だけならね。でも1年以上の密着取材も可能と出版社が言うので、それならと引き受けました。通常の取材ではわからない彼女たちの普段の生活、そこまで踏み込めるなら書く意味があると思ったんです」

 本書で高木さんは、19歳、20歳、21歳、31歳、32歳、そして60歳以上と、公園界隈で売春する6人の女性を主に取り上げている。

「6人の中には、テレクラで中学1年の時から売春をしてきた未華子(以下登場する名前は全て仮名、32歳)や、現役女子大生で月に350万円を稼ぐ恵美奈(19歳)、ヤクザ組織に拉致されても売春を辞めない梨花(21歳)などいろいろな女性がいますが、一番思い入れがあるのは?」

「やはり一番最初に出会って、1年以上取材し、結局その後も連絡を取り合うようになった琴音(31歳)ですね」

 琴音は横浜生まれ。父親は大手商社のサラリーマンで裕福な一人っ子だったが、専業主婦の母親が厳しい教育ママだった。学習塾、バレエなどの習い事に追われ、うまくできないと母から暴行を受けた。

 成績は良く、高校でも生徒会長。有名な私立芸大に受かった。だが、2年で留年すると「母が壊れた」(統合失調症)。琴音もOD(薬物過剰摂取)で倒れたが、母は放置した。それを契機に母に対する憎しみが増した。そして琴音自身も統合失調症と診断された(後にASD=自閉症スペクトラム障害も判明)。以降、二つの精神疾患で今も通院、服薬中である。

「20歳頃にキャバクラに勤め、やがて地元のホストにはまり風俗嬢になりますね。なぜでしょうか?」

「コンビニとかの一般職だとミスばかり、病気の影響もあって続かないんです。それと母親への復讐心、母を裏切りたかったというのがあります」

 新宿に行った時にレディースサウナで未華子に出会い、「公園(の街娼)方が稼げる」と教えてもらった。

 歌舞伎町の区立大久保公園とハイジア(東京都健康プラザ ハイジア)の界隈である。

 2019年8月、28歳の時から琴音は街娼を始めた。時間が自由な「仕事」を気に入ったのだ。1本(人)約1万5000円で、月に数十万円になる。

「でも高木さんは、琴音が売春以外に詐欺もやっていたことを取材中に突き止めましたね?」

 琴音は時折、西新宿の高級ホテルで収入以上の優雅な暮らしをしていたのだ。出会いカフェの客で、「生」で性交をした男に、仲間と共有の妊娠検査表優性の画像を見せるなどして泣き落とし、金をせしめる手口だ。累計2000万円。

「妊娠詐欺は犯罪ですからね。検挙の証拠にならないよう、記述には気を付けましたけど、要はホス狂いの彼女たちも、やられっ放しではなくしたたかさも備えていた、と」


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