2024年12月14日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年1月26日

 内陸国エチオピアが、ソマリアからの分離独立を主張するソマリランドからアデン湾に面した土地を租借すると発表したことにより、地域を更に不安定化させると、Economist誌1月6日号の記事‘Ethiopia’s gambit for a port is unsettling a volatile region’が解説している。要旨は次の通り。

 1月1日、エチオピアのアビイ首相とソマリランドのムセ・ビヒ・アブディ首相は、エチオピアの首都アディスアベバで記者会見を行い、エチオピアがソマリランドから軍港と20キロメートル(km)の海岸線を租借するとの驚くべき発表を行った。それと引き換えに、ソマリランドはエチオピア政府による正式な外交承認を受ける可能性を得た。

ソマリアのモガディシュで、エチオピアとソマリランド離脱地域との間で締結され、内陸国エチオピアの海岸線へのアクセスを認める協定に腹を立てた数千人が抗議した(2024年1月3日、AP/アフロ)

 この取引は、すでに脆弱なこの地域を更に不安定なものとした。ソマリア政府は、「アビイはソマリアを破壊しようとしている」と訴えるなど猛反発した。わずか3日前、モハムドとアブディは、ソマリランドの憲法上の地位に関する協議を再開する合意に署名したばかりだが、今や反故も同然だ。

 これに対してアビイは、この取引を、エチオピアが十年来求めてきた海への直接のアクセスを実現する外交的勝利だと述べた。エチオピアはかつて2つの港と海軍を有したが、1993年にエリトリアが分離独立したことによりこれらを失った。98年から2000年にかけての国境戦争でエリトリアの港へのアクセスを奪われて以来、エチオピアは対外貿易のほとんどをジブチ港に頼ってきた。

 アビイは以前から、エチオピアを紅海とバブ・エル・マンデブ海峡における大国にしたいという野心を明らかにしてきた。今や、アビイは外交を通じて目標を達成したと主張できる。

 ソマリランドの指導者たちには、この取引は30年にわたり得られなかった国際的な承認の突破口となる。彼らは、エチオピアが承認することにより他のアフリカ諸国もこれに従うことを望んでいる。

 アビイはアラブ首長国連邦(UAE)との強い関係を享受しており、UAEがこの取引の仲介に一役買ったのではないかと疑う外交官もいる。ソマリランドにエチオピア軍基地を設けることは、UAEが、広域湾岸地域とアフリカの角全体において勢力圏を確保する計画の最新のステップであると言える。

 さらなる混乱が予想される。エリトリアの支配者たちは、アビイが武力に頼ることなく目標を達成することで一息つけるかもしれないが、いずれエチオピア海軍が目の前に迫ってくるという見通しは歓迎できないないだろう。また、エチオピアの貿易をめぐる競争から損失を被ることになるジブチもまた不満を抱いている。

 この協定はおそらくUAEが地域的支配権を持つことに反対するエジプトとサウジアラビアの不興を買うことになろう。事態鎮静化のため、ソマリアは、アフリカ連合と国連安保理に介入を訴えている。しかし、今は、無慈悲で向こう見ずであれば、それが通ってしまう時代なのだ。

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