2024年5月17日(金)

人口減少社会とスポーツと子どもと

2024年2月11日

子どもが「移籍」しなければならなかった

 神奈川県内に住む40代の男性は昨年、ずっと頭を悩ませていた。息子(次男)の少年野球チームのメンバーがいよいよ足りなくなり、単独チームでの活動が困難になりつつあったからだ。

 男性は高校時代に強豪校に所属し、ベンチ入りメンバーではなかったが、自分たちの代には甲子園にも出場した。本格的な野球は高校までで、社会人になって結婚後、2人の男児に恵まれた。長男は小学6年生で少年野球を卒業し、来年からは中学に進学する。次男は野球に熱中する新小学4年生だ。

 しかし、次男が昨年まで所属していたチームは、すそ野が先細り、単独チームでの大会出場が困難になっていた。

 23年春、野球日本代表「侍ジャパン」はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で3大会ぶりの「世界一」に輝いた。この大会でMVPを獲得した大谷翔平選手はメジャーでの日本人初の本塁打王を獲得。世間では、侍ジャパンや大谷選手の活躍で、野球をする子どもたちが増えることを期待する声があった。しかし、少なくとも、男性の息子が在籍するチームではWBC以降、新たに入部した児童は一人もいなかった。

 少年野球は高学年と低学年で大会などが「区分け」される。マウンドからホームベースまでの距離や塁間の距離も違う。新5年になる現在の4年は、昨年から高学年チームの試合に出場し、高学年仕様の距離で試合をしてきた。低学年チームも3年以下だけでは9人そろわない。

 もちろん、近隣チームの全ての野球チームがこうした部員不足に悩んでいるわけではない。次男が所属するチームには、長男も所属していた。指導者や他の保護者にも不満はなく、「楽しい環境で試合に出させてもらえた」と感謝の気持ちが大きい。

 しかし、次男が低学年仕様の距離で、本格的に野球をやるなら現状のチームからの移籍しかない。少年野球の世界では、近隣チームへの移籍は〝裏切り者〟と呼ばれるほどタブー視される。男性も現状のチームに不満があっての移籍ではないため、近隣チームへの「移籍」は全く頭になかった。しかし、次男が向き合いたい野球はどんなものか、次男の希望に対して、父親としてどうしてあげることができるかは常に悩みの種だった。

 男性は年明けから県外のチームへ移籍を決めた。実家に近く、一人で暮らす高齢の母親の様子も見に行けることが背中を押した。元のチームには家庭の事情を丁寧に説明し、「続けられなかったら戻ってきてね」と温かい言葉をかけてもらった。

 友達がいないチームに移籍した次男だが、楽しく野球を続けてくれている。しかし、現在は週末が休みになっているが、勤務形態が変わる可能性もあり、遠方のチームでの活動は、いつまで続けられるかという不安もある。


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