このままでは野球を〝普通〟に楽しめない
少年野球の競技人口の減少はデータにも表れているが、萩原さんはむしろ子どもたちの野球環境の「二極化」を懸念する。
「親が野球の経験者だったり、練習のサポートに熱心だったりする家の子どもは、地域の強豪チームや良い指導者のいるチームの門を叩き、チームの活動以外にもアカデミーに通うこともある。よく飛ぶといわれる高反発の高価なバットなどの用具もそろえてもらい、保護者が練習の送迎やサポートなども積極的に引き受けるため、練習時間もたくさん確保される。だから、少年野球の競技人口が減少傾向にあったとしても、一部の子どもたちのレベルはむしろ高くなっている面もあると思う。
一方で、保護者がそこまで熱を入れないと、こうしたチームで活動を続けることは難しい。夫婦共働きなどで練習をサポートできないと入部のハードルが高くなるからだ。少年野球は練習を手伝えなかったりすると、他の保護者からの視線が冷たかったりして、子どもに野球をやらせてあげたくてもできないケースもある。もちろん、熱心に手伝っている保護者からすれば、反発があるのもわかります。このため、少年野球は現代の家庭環境にそぐわない面も多く、簡単に始められないスポーツになってしまっており、いわゆる『普通の家の子どもたち』が野球を楽しむ環境が減っている」
環境に恵まれた子どもたちはレベルをどんどんと高めることができる一方、そうではない子どもたちは野球との〝出会い〟そのものが制限される。これが二極化の根本的な原因である。結果、すそ野はやはり縮小する。こうした環境を目の当たりにした萩原さんが企画したイベントの狙いは、少年野球に「付加価値」をもたらすことにあった。
「このイベントは強豪チームも参加していますが、負けても次に試合があり、勝っても負けても2日間で3試合行うことができる。このため、野球を〝普通〟のレベルで楽しみたいという子どもや保護者にも参加できる大会になっている。野球だけで一日がつぶれてしまうのではなく、バーベキューで交流ができる、アウトドアを楽しめるという点が付加価値です。
今後は例えばですが、英語しか使わない野球大会とか、ゴミ拾い活動もつけて環境を考える野球大会などがあれば、勝利以外にも付加価値があると思う。しかも、勝ち負けにはこだわらず、エラーしても罵声が飛んでこないなら、野球をうまくないけど出てみたいという子どもたちがいるかもしれない。今はチーム単位ですが、そういう子どもたちの受け皿になるイベントとして、定期的に開催していくことも考えていきたいと思っている」