2023年6月6日、全日本軟式野球連盟(全軟連)が都道府県支部の理事長宛てに出した通知文は、少年野球関係者の間でも、衝撃を持って受け止められた。
多くの少年野球チームが所属する全軟連が、父母会の運営や保護者のサポートについて「昨今の学童登録チームおよび競技人口減少の要因の一つとされている」と指摘した上で、「共働き世帯の増加や休日の過ごし方の変化により、子供が野球をやってみたいと言っても、野球をさせたくても保護者の金銭的負担以外にも時間的な負担が大きいことにより、野球を敬遠される傾向が見受けられる」とし、父母会運営の基本的な考え方を明記したのだった。
全軟連は「父母会の設置や保護者のサポートを求めることは各チームの任意」とし、「強制や同調圧力のようなことが起こらないように配慮」と「父母会や保護者のサポート体制を理由に、選手がチームを辞めることになった場合には、保護者の負担にならないチーム運営や父母会運営の見直しや改善を図るように努めること」を求めている。
別紙ではさらに詳細に「子供のスポーツ活動への関わり方にその家庭ごとの考えがあることをよく理解し、チームの運営方法を決めるときによく話し合う事が大切」「今までの『当たり前』を見直す事も大切」「役を担わないと、子供が使ってもらえないなどの誤解を生まない事は大切」「伝統的な決まり事(保護者の役割、分担など)があっても、時代の変化や新しい意見を取り入れて見直していく必要がある」と柔軟な対応を求めている。
しかし、連載の1回目「減り続ける競技人口 少年野球の未来は、明か暗か」で紹介したように保護者の負担は多岐にわたる。通知文を出して以降、連盟には多くの問い合わせが寄せられているが、連盟は「それぞれのチームに事情があり、あくまで運営は各チームに委ねる」というスタンスを崩すことはできない。このため、父母会のあり方についても、具体的な〝ロールモデル〟は示していない。
練習の手伝い、父母会、遠征の配車もない
東京都練馬区に21年、これまでにない発想からスタートした少年野球チームが誕生した。
「練馬アークス・ジュニア・ベースボールクラブ」。7、8人の子どもたちでスタートしたチームは発足から約半年が経過した同年11月、ネットメディアにチームの活動方針や内容が取り上げられると、入会希望者が殺到した。本来は1学年5人、6学年で30人程度を定員としていたが、現在の所属は約40人と定員超過で長らく入会待ちの状態が続いている。
メディアに取り上げられ、希望者が相次いだのは、チームの革新的な運営方針に理由があった。
このチームには、そもそも「父母会」が存在しない。それどころか、保護者間の連絡手段であるグループLINEもなく、設立者で代表の中桐悟さん(40歳)自らが練習予定などを送っている。
チームの特色はほかにも、指導者の怒声・罵声の完全禁止や、コーチも公認野球指導者資格の取得を推進し、報酬を払って指導を仰ぐ。練習時間についても土日それぞれを午前と午後の4つに分割し、そのうちのどこかだけを野球の練習か試合にあてる「4分の1」ルールを厳守。父母会は設立自体を禁止とし、保護者には一切の業務負担がないことを確約する。これらはホームページにも「当クラブの約束」として明記する。