また、月謝は3000円に抑える代わりに、保護者には、強制はしないが、練習や会計などの協力は求める。ただ、部員数に定員を設けないことで、1年から6年までで50人が所属するため、宇田川さんは「少しずつの協力で済んでいる」と話す。何より、「チームの運営方針を変えれば、子どもたちは野球をやるために集まってくることを証明できた」と胸を張る。
「低学年は野球を楽しく、高学年は勝率5割を目指して頑張っています」
〝理想のチーム〟運営に立ちはだかる壁
中桐さんが実際にチームを作ると、チームの立ち上げよりも実は運営のほうがはるかに大変だった。
最初の難関は、グラウンドの確保だ。小中学校へお願いに言っても「門前払い」だった。区役所に相談へ行くと、「学校に問い合わせてください」と言われ、ある小学校では「野球とサッカーのチームがすでに使っていますから」とつれない対応だった。
筆者が練馬区役所の担当者に取材すると、「新規に使いたい団体を規制しているわけではないが、小学校は一般のスポーツ施設ではない。昔から使っているチームなどもあり、運用は地域や学校に委ねられている」と話す。
ただ、中桐さんは「既存チームとの軋轢が生じることを嫌ったのだと思います。実際は、空いている時間帯や曜日もあるのですが」と不信感はぬぐえない。結局は、学校のグラウンドはあきらめ、都立のグラウンドの抽選でなんとか週1回の練習場所を確保している。
一方で、同じようなチームを作りたい、いまのチームを変えたいと思う保護者から連絡をもらうことは多いという。
中桐さんは言う。
「既存のチームを変革させたいという問い合わせに、僭越ながら何度かアドバイスをしたことがありますが、チームを中から変えることは難しいと思います。『今のままでいいじゃないか』という抵抗勢力があれば、そこまでですね。
新規で立ち上げたいという声も都内の他の区から聞こえてきますが、グラウンド確保や一緒にやってくれる指導者が見つからないなどの要因はあるようです。勇気を持って一歩を踏み出し、行動に移せるか。最後は、ご本人のやる気だと思います」
静岡県には、「練馬アークス・ジュニア・ベースボールクラブ」の元コーチが同じ理念に沿ったチームとして「浜松アークスピリッツ」(石井悠喜代表)が立ち上がった。
中桐さんは言う。
「われわれのようなチームはこれからも徐々に広がっていくと思います。しかし、スピードは非常に遅いですね。だから、希望者を全員は受け入れられない。社会が求めているものに対し、インフラ側が追いつけていないのが現状です」
一方で、保護者が子どもたちの練習を手伝ったり、指導者の厳しい指導も、子どもたちの成長に繋がるなら、決して「悪」ではないーー。こうした考え方も、少年野球の保護者には根強くある。(つづく)