野球試合とバーベキュー
少年野球の競技者数はなぜ減っているのか。一般的には、保護者がチーム内で係を担う「保護者の労力的な負担」、高額なグローブ、バットなどの用具が必要な「金銭的な負担」、怒号や怒声による「旧態依然とした指導」が根深く残るというのが主な理由だ。
加えて、練習と試合で毎週末と祝日、夏休み合宿など野球のスケジュールで埋まり、家族での時間や野球以外の時間が取れないほどの「縛り」への嫌悪感を口にする保護者もいる。すでに、本連載「人口減少社会とスポーツと子どもと」の記事でも紹介したように、土日を全て練習にあてないチームも誕生しているが、絶対数が足りず、こうしたチームができてもすぐに定員が埋まって「入会待ち」が続く。
すそ野の縮小傾向を食い止めるべく、〝風穴〟を通そうとする取り組みは各地で起きている。
その一例が「スポーツ×アウトドア」の新たな試みである。昨年2月、京都府城陽市の鴻ノ巣山運動公園では、「日本一楽しい野球大会」と銘打った野球大会「ロゴスランドCUP」が開催された。
「日々練習に励み、なかなかお出かけができない学童野球に携わる子どもたちが、野球だけでなくアウトドアも存分に楽しめることで、子どもや大人、家族みんなが『笑顔』になる豊かな心を育めるイベント」をコンセプトとし、野球の大会でありながら、試合後には、球場に隣接するアウトドアレジャー施設『LOGOS LAND(ロゴスランド)』内で、応援にきた保護者や兄弟などの家族とバーベキューやアウトドア体験もでき、家族の時間が確保されているという〝一石二鳥〟の野球イベントなのだ。
イベントでは、多賀少年野球クラブ(滋賀県)など関西を拠点にする強豪チームとの交流試合が組まれた。総合アウトドアブランドのロゴスコーポレーション(東京都)が協力した。
イベントの主催企業の「スポーツバックス」(東京都)で企画を担当した萩原雄一さんも、小学6年の長男が少年野球チームでプレーしている。休日はほぼ練習で、時間も朝から夕方まで。このため、週末は中学生の長女を含めた家族4人で過ごす時間がほとんど取れないという。
保護者は遠征に車を出し、試合では審判も引き受ける。そんな風習が、少年野球未経験の萩原さんには違和感の連続だったという。
「少年野球をやっている子どもたちも家族で過ごす時間がありながら、野球も楽しめるイベントを創出できないか」というのが企画のスタート地点だった。
大会ではベンチの指導者も観戦している保護者も、子どもたちへの罵声、怒声を禁止。さらに参加チームの試合数を確保するため、順位決定戦などを採用して負けても次の試合が組めるようにした。
昨年のイベントには、京都と滋賀、岡山から合わせて5チームから約90人の子どもたちが参加した。今年2月には、2年連続での開催が実現。しかも、京都、滋賀、奈良の地元に加えて、石川と富山、徳島、岡山から計8チームがエントリーし、参加した子どもたちの人数は約180人に倍増した。萩原さんも反響に驚く。
参加するチームの思いもさまざまで、卒団した6年生の「思い出作りの大会」にするチームや、京都への旅行を兼ねたチーム、新5年が中心となった強化のためのチームなど……。試合後のバーベキューでは、家族で楽しむ姿が印象的だったという。
萩原さんは「いつもはもちろん好きで手伝う保護者がほとんどでしょうが、子どものために野球の練習に時間を費やすお父さん、お母さんが、自分たちもバーベキューを楽しんでいる様子でした」と振り返る。