2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年2月27日

 元米国政府高官は、大統領府のアジアへの集中が失われるとの心配は誇張されているという。キャンベルは国務省で引き続きインド太平洋問題でも重要な役割を果たすし、この問題に対応する経験豊かなチームも居る。キャンベルが大統領府に居るかどうかより、バイデン政権が彼のイニシアティブへの集中を維持するかどうかの方が重要だという。

 キャンベルはまた、中国の警告にもかかわらず欧州諸国がインド太平洋で一層重要な役割を果たすことを実現する上でも、大きな役割を果たしており、彼の異動が欧州に与える影響に対する懸念も大きい。大統領府のアジアでの指導力は不可欠だ。今やそれは失われ、補完されない。

 これはアジアと欧州の同盟国に大きな懸念を生んでいる。米国は欧州をアジアに上手く巻き込んだが、今や梯子を外している。

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日米安保で強化されていた対中政策

 キャンベルは、1990年代に、日米安保再定義(冷戦後の日米安保条約の役割を定義し、日米安保共同宣言を発表と、新たな役割に応じた日米防衛協力のガイドライン改訂に繋げたプロセス)に携わった際、ハーバード大学の教授から国防次官補になったジョー・ナイが、大学の同僚であったキャンベルを次官補代理に連れてきたのが彼の政府への関りの始まりだ。

 元々学者としては欧州・ソ連の専門家で、アジアとの関係は無かったが、国防省の優先課題がアジアの同盟国との関係だったこともあり(冷戦後の米国の対外関与政策をどう位置付けるかという大きな課題の中でのアジア重視=対中政策だった。)、どんどんアジアに傾斜していった。それから既に約30年が経つ。

 なお、日米安保再定義プロセスの米国側主要プレーヤーは彼ではなく、これもナイが連れてきた故エゾラ・ボーゲルで、手足は、日本が日米同盟から離れていくのではないかと警鐘を鳴らす論文を書いてこのプロセス開始を齎した「若手」筆頭のマイケル・グリーンとパトリック・クローニンだった。当時は、1カ月に1回程度ワシントン駐在の「若手」外務省・防衛省関係者と米側関係者がボーゲルの元に集まり、議論していた。

 要は、当時から日米安保は、冷戦時代の対露政策に代わり、対中政策だという共通認識が日米関係者の間に築かれ、その後着々と強化されてきた、ということで、その歴史は長い。ただ、正にそれが現実の問題になろうとしている今、今度は、米国の対外関与の「意思」自体が萎えてきているのは深刻だ。


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