原因物質を増やさない
……という状況を踏まえたところで、リコード法に話を戻す。
レカネマブがアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβを取り除こうとするのに対して、リコード法では、アミロイドβが「増えてしまう原因」を改善することに主眼を置く。
「リコード法の画期的なところは、『アミロイドβが蓄積する背景』に着目した点です。従来のアルツハイマー病の治療法はアミロイドβそのものに焦点を当てた薬物の開発が行われてきました。しかし、最近の様々な研究からは、アミロイドβは炎症や栄養不足、毒性物質の暴露などによって増加することがわかってきました。アミロイドβが増える原因があるのならば、それらを放っておいては根本的な治療になりません」
アミロイドβを増やさないために、リコード法では、アミロイドβがどのようなときに生み出されるかに着目。現在までに36の要因を確定したという(注・今後、さらに発見されていく可能性があるそうだ)。
具体的には、動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞などのリスクを増やす要因とされる「ホモシステインの増加」や「炎症反応」などである。
それらをもとに、リコード法では認知症の原因を6タイプに分類している。
<リコード法における認知症の原因6タイプ>
- 炎症性:歯周病などの感染症、腸内環境の乱れ、栄養・食事の乱れなどによる炎症
- 萎縮性:ホルモンやビタミンの不足
- 毒物性:重金属(水銀、鉛、ヒ素など),カビ毒などの毒素
- 糖毒性:高血糖
- 血管性:血管の病気の存在
- 外傷性:頭部のケガなど
これらの原因因子や症状はひとりひとりで異なっているため、リコード法のプログラムは個人に合わせたオーダーメイドになる。
「プログラムの柱となるのは、食事・運動・ストレス除去(ストレスマネージメント)・知的活動(脳トレなど)・睡眠の5つです。治療に入る前の時点で、患者さんの体がどのような状態で、どのような症状があり、どのような生活習慣を取り入れたらアミロイドβがたまらなくなるのか、厳密な検査を行って、プログラムを作ります」
つまりリコード法とは、生活習慣や環境などを「アミロイドβをためない」方向に改善・整備し、より根本的な改善を目指すプログラムということなのだ。
しかし、認知症のリスク要因がある程度特定されているのなら、それらを取り除けば、認知症を回避できる可能性が高まるのではないだろうか。
「はい、その通りです。アルツハイマー病の原因となるアミロイドβは、認知症を発症する前から20年ほどかけて脳の中に蓄積されていきます。アルツハイマー病は65歳以上で多くなってきますから、アルツハイマー病を回避する行動は、40代から始めるといいでしょう」
では、何を行えばいいのか。
次回は、今野先生のクリニックで行っているリコード法の検査内容とプログラムの概要を伺いながら、日常生活に取り入れられる「認知症を回避する行動」について詳しく聞いていく。
医学博士。ブレインケアクリニック名誉院長、一般社団法人 日本ブレインケア・認知症予防研究所代表理事、所長。順天堂大学大学院にて、老化予防・認知症予防に関する研究を行い博士号を取得。大学病院や精神科病院での診療を経て2016年にブレインケアクリニックを開院。各種精神疾患や認知症の予防・治療に栄養療法やリコード法を取り入れ、一人ひとりの患者に合わせた診療にあたる。また、認知症予防医療の普及・啓発活動のため2018年に日本ブレインケア・認知症予防研究所を設立。著書・監修に「最新栄養医学でわかった! ボケない人の最強の食事術(青春出版社)」など。最新刊『ボケたくなければ「寝る前3時間は食べない」から始めよう 認知症診療医に教わる最強の生活習慣』(世界文化社)が5月30日発売予定。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、日本抗加齢医学専門医。
カリフォルニア大学名誉教授・デール・プレゼデン博士が開発した認知症の治療プログラム。リコード法の公式サイト(APOLLO HEALTH https://www.apollohealthco.com)によると、日本の認定医は2024年2月末時点で5名。ただし、今野先生によると「リコード法に準じた食事法などを治療に取り入れる医師や医療機関は増えつつある」と言う。治療は自由診療となり、金額は医療機関により異なる。