2024年12月22日(日)

一人暮らし、フリーランス 認知症「2025問題」に向き合う

2024年2月2日

認知症人口は、2025年には700万人になると言われている(厚労省「認知症高齢者の将来推計について」より、認知症施策 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)。この連載では、認知症を回避するためにできることはあるのか、また、認知症対策として今、どのようなことが行われているのかなどについて、様々な現場に足を運びながら見ていく。なお、筆者の立場は、「離れて住む実家の母の認知症を防ぐこと」。よって、対策を見ていく際には、「どうすれば自分以外の人にその対策を行ってもらうことができるのか」も合わせて考えていきたい。

東京都出資のJKK東京

「コーシャハイム」という集合住宅がある。

 JKK東京(東京都住宅供給公社、以下JKK)が所有・管理する物件で、都内各地に数カ所ある。JKKというのは、東京都が全額出資して設立した特別法人で、 東京都から管理を受託している約25万戸の都営住宅とは別に、 都内に約7万戸超の物件を所有し、住まい面から都の政策課題をサポートしているという。

 今回の舞台はその一つ、コーシャハイム千歳烏山である。

「コーシャハイム千歳烏山」(写真提供・JKK東京)

 コーシャハイム千歳烏山は、世田谷区にある大型のJKK住宅で、全部で12棟からなる。
1~8号棟までが一般住宅、9・10号棟と11号棟の一部はサービス付き高齢者向け住宅となっていて、12号棟には保育所やクリニックなどのテナントが入っている。また、12号棟の1階は多世代交流のためのスペースとなっていて、「コミュニティカフェななつのこ(以下、ななつのこ)」が入っている。世帯数は、一般住宅が513戸で、サ高住は86戸。両者、常にほぼ満室状態だという。

 このコーシャハイム千歳烏山を拠点に、月に一度、概ね60歳以上の人を対象とした健康体操が行われているというので、参加してきたのである。

ななつのこde運動し隊

 まずは経緯から書いて行こう。

 私がJKK住宅の存在を知ったのは、友人からの情報だった。コロナ禍に、別のJKK物件に入居した友人から「公社住宅っていいよ」と聞かされて、どんな物件があるのかをチェックするようになったのが、2023年の初夏。以来JKKのHPを見るようになり、物件や募集内容を見るうちに、世の中にはさまざまな住み方や居住空間があることを知り、大げさに言うと目が見開かれた。

 中でもコーシャハイム千歳烏山は、「多世代交流スペースというものがある」と言うのが目を引いた。ちょうど同じころ、認知症に関して調べ始めていたところだったので、多世代交流というワードに特に興味を持ったのだ。

 HPで見る限り、ななつのこは、町中の開かれた場所にあり、かつ、とてもお洒落な印象だった。FBのページには、行われるイベントの月間案内表も出ていて、毎日のように様々なイベントが行われているようでもあった。

「こんなカフェのある町に住み、日々イベントに参加したり、カフェでお茶を飲んだりしていたら、気軽に声をかけ合える知り合いができるかもしれない」と私は思い、「認知症回避のヒントになる取り組みも行われているのではないか」と推測した。

「コミュニティカフェななつのこ」のイベント予定表

 そこで、「高齢者向け」に絞ってイベントを探してみると、「健康体操」というのが目に入った。

 案内を読むと、「日頃の運動不足解消のため、定期的に体操をしませんか? 椅子に座ってできる運動をメインに行い、筋力低下、腰痛、肩こり、膝痛などの予防改善を目指します」とあり、対象者は「運動を医師から止められていない概ね60歳以上の方」とある。また、参加費は無料ながらも「任意で一口300円の運営費カンパにご協力いただいています」とのことだったので、カフェにチラシを取りに行くと、「健康体操は『ななつのこde運動し隊』というグループが行っているものですが、詳しくは『実家なんとかし隊』に聞いてみてください」という。

「え? 実家なんとかし隊って何? ななつのこde運動し隊とどんな関係が?」と、少し不思議に思ったものの、ネーミングからして私のような立ち位置の方が関係しているような気もしたので、むしろ「実家なんとかし隊」こそ、取材させてほしいかもしれないとも思った。

 そこで、ネットで「実家なんとかし隊」を調べると、代表の柴﨑さんという方を中心にいろんな活動をしているとわかった。それをざっと読んだのちに、私の立ち位置と興味関心を書いて、健康体操について尋ねるメールを柴﨑さんあてに送ると、「興味のある方でしたら、少し下の世代の方でも参加していただいてOKです。私もそういう立場で参加していますから、いつでも見学にいらしてください」という。

 こうして、私は11月回に参加させてもらうことになった。

コーシャハイムで健康体操

 11月、と言ってもまださほど寒くなってない平日の午後。運動のできる格好にコートを羽織り、私はコーシャハイム千歳烏山に赴いた。

 開始15分前に会場である交流スペースの「コミュニティサロン(以下、コミュニティサロン)」に着くと、既にカギは開いていて、中では一人の女性が入り口に背を向けて準備作業をしていた。

「柴﨑さんですか?」と声をかけると、「そうです」というのであいさつをして、会の内容を聞こうとしたのだが、すぐに参加者がやってきたので、よくわからないまま、とりあえず柴﨑さんを手伝うことにした。

 会は2部構成になっていて、この日は前半60分が体操で、後半60分は「しおりを作りながらのお茶会」が行われる予定となっていた。月に一度行われる健康体操は、毎回2部構成で行うスタイルになっていて、後半の内容は月ごとに変わるようだった。

12月回の案内チラシ。「ななつのこde運動し隊」(注1)は、シニア中心の自主活動グループであると後に判明する

 後半のしおり作りは「私が参加していいものか微妙だな」と思ったが、お茶会が一緒にあるのなら、参加者の顔ぶれを知るチャンスでもある。これがどのような会で、どんな人たちが参加しているかは、その時に聞けばいい……などと考えているうちに、参加者が塊で集まってきた。

 各人がテーブルに置かれていたカンパボックスの中に300円を自主的に入れ、並べてある名札の中から自分のものを取って胸元につけると、持参した手帳を取り出して柴﨑さんたちスタッフに渡している。手帳は「介護予防手帳」というもので、世田谷区が発行しているものを利用して、出欠印を押しているようだった。

 私は参加者の人数を見ながら椅子を出したりしていたのだが、やることはすぐに無くなって手持ち無沙汰になってしまった。すると、どなたかが「カセットデッキはどこ?」と言い出した。体操で音楽を流す時に使うという。見ると柴﨑さんたちは相変わらず忙しそうだったので、「取ってきましょうか」と声をかけると、「備品置き場に行けばわかる」とか。

 実はこの体操の会場は、ななつのこの向かいにある建物の1階で、スタッフの方が使う道具を目と鼻の先にあるななつのこに置いてきたというのだ。そこで私が代わりに取りに出かけ、その後も同じように、ペンや資料を取りに私はななつのこと会場を往復した。


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