今回は聴覚に障害を持つアスリートということで、お会いするまでは上手くコミュニケーションが取れるのだろうかと少々心細くもあったが、奥寺渉さんの明るい性格と豊かな表情にすっかりはまり込んで、気が付けば1時間50分が過ぎていた。よく笑った時間でもあった。
WEDGE Infinityの編集者、木村麻衣子さんの丁寧な聞き取りに助けられ、目や口の動きに身振り手振りを加えて、取材現場は五感をフルに使ったコミュニケーション密度の濃い空間となった。言葉が聞き取れなかった時は何度も言い直していただき、私たちは耳を澄ませた。そんなときの奥寺さんはテーブルの向こう側から全身で私たちに語り掛けてきた。その意図をいつも先に木村さんが理解して、私が「な~るほど!」とついていく形でインタビューは進んで行った。
アメリカンフットボールのポジション名や役割はどうしても理解できないため、電子メモパッドと呼ばれるコミュニケーションツールを使って図解入りで説明していただいた。
決してスムーズな会話が成立しないからといって、コミュニケーションが停滞していたわけではない。むしろ逆だ。何度もこうしたやり取りを繰り返しながら、伝えたいという思いと理解したいという思いが強まってコミュニケーションとしては深まっていったと考えられる。
また、人間性まで垣間見れてしまうような、こんなやり取りが楽しかった。
ただし、後日レコーダーに録音された内容を確認しようとしても、理解するまでには何度か聞き直さなければならなかった。向かい合っているときは理解できていたにもかかわらず、である。そのことから、人はいかに日常生活の中で、言葉だけではなく心と体を使って気持ちを伝え合っているかということがわかる。だからわかり合えたときに胸が温かくなるのだろう。私はそれを奥寺さんの取材で体感させていただいた。
私たちの仕事は「一期一会」だ。うわついた言葉だけの会話よりも、濃密な時間を過ごせたことに深く感謝したい。
あえて意思疎通が重要なチームスポーツに
アメリカンフットボール / デフラグビー 奥寺渉さん。東京都生まれ。