「私の歌も、必ずどこかに哀愁の要素が潜ませてある」
ユーミンこと松任谷由美は50年以上にもわたって、日本の音楽シーンを彩ってきたシンガーソングライターである。多摩美術大学を卒業していることからもわかるように、絵描きを目指していた。
『ユーミンとフランスの秘密の関係』(2017年、CCCメディアハウス)から、彼女の青春の一ページを振り返ってみるのは興味深い。高校生時代に大学受験のために絵の予備校に通っていた、お茶の水でパリと出会った。「(フランス語を教える)アテネ・フランセがあったあの界隈は、戦前から日本のカルチェ・ラタンと呼ばれていたそうです。そこで知ったのは、煙草をくゆらせながらシャンソンを口ずさむようなパリ。街ごとがそんな雰囲気でしたからパリを疑似体験している感じでした。ステキなフランスかぶれのお兄さんお姉さんたちに出会い、彼らを通じてヴェールやサガン、ランボーやエリュアールを知ることになります」
彼女が最も魅かれた絵画は「印象派」だった。いうまでもなくジャポニズムがもたらした絵画である。彼女の作品のなかに、この「印象派」が強く意識されていたのだった。
「人や風や光の一瞬の動き、一瞬の想いを閉じ込める創作方法は、私が歌をつくるときのやり方そのものだし、明るく見えるからこそ影がある。私の歌も、必ずどこかに哀愁の要素が潜ませてある」
「ユーミンストーリー」は、ユーミンファンにとってはたまらないオムニバスドラマである。Season2を待ちたい。
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