2024年5月15日(水)

Wedge2024年4月号特集(小さくても生きられる社会をつくる)

2024年3月21日

 現状が厳しいとしても、数十年スケールで考えれば、気候変動や国際的な情勢の変化に伴う農産物や木材の需要の拡大、自動運転といった技術の向上など、集落を再興する好機はいくらでもあると思われる。

 この生き残り策では、「将来的な再興に必要なものは何か」「住みたいと思う集落をいかにつくるか」という問いが重要になる。それは当事者が「当事者の価値観」で考えることである。

 そこで筆者としては、次の4点、①土地の土木的な可能性の保持(表土の保全など)、②土地の権利的な可能性の保持(所有権の整理など)、③集落の歴史的連続性の保持(集落の記録づくり、元住民を中心とした団体の立ち上げなど)、④自然の恵みをいかすための古くからの生活生業技術の保持について重点的に議論することを推奨したい。

 ここまでの提言は「活性化による常住人口の維持が難しい集落」が対象であったが、自分たちの集落がそれに該当するか迷う場合も多いと思われる。そのような場合は、「楽観的な未来」と「悲観的な未来」の両方を想定し、いずれの未来が現実になっても大丈夫な集落づくりを実践することを推奨したい。

 楽観と悲観を同時に考えることで、「非現実的なバラ色」「思考停止的な諦め」の両方を防止できる、という効果も期待できる。

財政の健全化には過疎地を
切り捨てても焼け石に水

 厳しい過疎地の維持の議論では、インフラ維持費の負担が話題になることが多い。令和6年能登半島地震からの復興でも、同様のことが一時大きな話題になった。

 「財政の健全化のため、過疎地を切り捨てるべきでは」といった意見について、少し述べておきたい。

 筆者の答えは、道義的な問題以前の段階として、「過疎地を切り捨てても焼け石に水」である。

 例えば、北陸3県の市町村(中核市を除く)の歳出に関する試算では、10人未満の農業集落の属地的な行政サービス(道路や橋りょうの維持など)に要する支出は、歳出総和の2%にすぎない(公債費を除いた歳出で計算。林直樹「属地的な行政サービスに伴う北陸3県の市町村歳出の試算」『創立90周年記念2019年度(第68回)農業農村工学会大会講演会講演要旨集』264−265、2019。)。過疎地から市街地への移住を誘導できたとしても、扶助費(社会保障制度の一環としての支援)のような「人口そのものに大きく左右される支出」まで削減することはできない点を強調しておきたい。

 無論、このまま財政が悪化した場合、都市・農村を問わず、「インフラを削減せざるをえない」という事態に追い込まれるであろう。ただし、そうなったとしても、かなり先のことである。

 財政の健全化については、もっと大きな枠組みで、例えば、ある程度の規模の市街地を有する市町村と、その周辺にある農山漁村中心の市町村を一体的にみて、時間をかけて議論すべきである。

   
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Wedge 2024年4月号より
小さくても生きられる 社会をつくる
小さくても生きられる 社会をつくる

全都道府県で人口が減少――。昨年7月の総務省による発表に衝撃が走った。特に地方においては、さらなる人口減少・高齢化は避けられない。高度経済成長期から半世紀。人口減少や財政難、激甚化する災害などに直面する令和において、さまざまな分野の「昭和型」システムを維持し続けることはもはや限界である。では、「令和型」にふさわしいあり方とは何か――。そのヒントを探るべく、小誌取材班は岩手、神奈川、岐阜、三重、滋賀、島根、熊本の7県を訪ね、先駆者たちの取り組みを取材し、「小さくても生きられる社会」を実現するにはどのようなことが必要なのかを探った。


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