見えにくいアジア系への差別の実態
そもそも米国社会におけるアジア系の立場は微妙である。米国では黒人に対しては、自分たちが奴隷として連れてきてしまったという負い目がある一方、アジア系に対しては「勝手に来た連中」という視点がある。また、アジア系移民は来歴もさまざまであるため、移民時に既に教育やお金のあったものも多い。
歴史的に差別されてきた者に対する措置として米国ではアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)、すなわち、アフリカ系や先住民などのように、過去に差別され、その影響で現在も恵まれていないと考えられる人々に入学試験や採用試験で優遇する措置がある。ところが、現在の教育水準や収入などによってアジア系は、その対象とはなっていない。
本当なら同様に米国社会で差別を受けて来た歴史をもつアジア系も差別是正の救済の対象となってもおかしくはなかった。ところがアジア系は平均よりも収入も多く学業成績がよいこともあって白人同様にその対象とはならなかった。そのため、アジア系は、アファーマティブ・アクションが「逆差別」、あるいはマイノリティへの過剰な配慮だとして白人たちと一緒になって廃止を訴えている現実がある。
このようにアジア系の米国社会における立ち位置は、基本的にはマイノリティの側でありつつも、時としてマジョリティの側へと移ろう流動的なものであり、そのことがアジア系に対する現状の差別の問題を見えにくくしている。
ハリウッドも変わり得るのか
今回のミッシェル・ヨーやキー・ホイ・クァンの対応は、個人的には、ハリウッドで干される危険を回避することになり、また、事態を丸く収めることでアカデミー側に貸しを作る「大人の」対応と見ることもできる。
いま真田広之主演の『SHOGUN 将軍』が全米で大ヒットしている。アジア人の役を白人がメイクして演じたり、あるいはアジア系が演ずることのできるにしても悪役しかもらえなかった時代と比べればアジア系俳優を巡る状況は大きく変化しているのも事実である。このような活躍を通じて、アジア系のハリウッドでの立ち位置も更に変わっていくことを期待したい。