2024年5月21日(火)

家庭医の日常

2024年3月23日

なかなか難しい吸入器の正しい使い方

 これも23年4月に紹介したように、喘息の治療には多くの薬剤が使用される。中でも口から薬剤を吸い込む吸入薬が重要な役割を果たしている。

 吸入薬を吸入するための機器(吸入器)には、大きく分けて、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー定量吸入器(DPI)、そしてソフトミスト定量吸入器(SMI)の3種類がある。MDIは充填されているガスの圧力で薬剤が噴射されるもの、DPIは粉末になっている薬剤を自分で吸い込むもの、そしてSMIはゆっくりと噴霧される吸入液を吸い込むものである。

 どれも使用方法があまり簡単とは言えず、MDIを使用している患者の90%、DPIを使用している患者の54%までが使用方法を誤っていたという臨床研究の結果もあるぐらいだ。だから私は、年に1回、実際に患者が自分の吸入器を使って吸入するところを確認させてもらうことにしている。

 正しい手技や手順を人に教えてその通りに実行してもらうことはなかなか難しいのだが、最近では標準的方法を見せる動画が利用できるようになったので、だいぶ楽にはなった。例えば、環境再生保全機構日本喘息学会のウェブサイトには吸入器の種類別に正しい吸入方法の動画が収載されており、参考になる。

吸入器による温室効果ガス排出

 どの吸入薬にするか(薬剤の選択)については診療ガイドラインなどを参考にするが、それに加えて、どの種類の吸入器にするか(吸入方式の選択)についても家庭医は考慮しなければならない。

 MDIに充填されているのは、フロンガスの一種であるハイドロフルオロカーボン(HFC)で、これが環境へ及ぼす影響が甚大なのだ。HFCはオゾン層を破壊することはないものの、温室効果としては二酸化炭素の1000〜3000倍という凄まじいデータが知られている(最近ではオゾン層破壊そのものの地球温暖化への影響は小さいことがわかっている)。

 カーボンフットプリントの推計では、MDIの吸入器1個が二酸化炭素換算で28キログラムの温室効果ガスを排出し、これはガソリン車が約280キロメートル走行する際に排出する量に相当するという。一方、DPIの吸入器1個では、1キログラム未満の排出、6キロメートルの走行という桁違いの差である。

 チリも積もれば山となるので、人口493.4万人のアイルランドで家庭医が調査した結果では、2019年に、442万7287個の吸入器が処方されており、そのうちMDIが59%、DPIとSMIを合わせて41%だった。これら吸入器によって排出される温室効果ガスの総量は二酸化炭素換算で5万4765トンに達し、MDIによるものが97%を占めていたのである。


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