2024年11月25日(月)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年3月25日

 現時点では、水原元通訳が賭けていたのは野球以外のスポーツだとしているが、これも野球協約の禁止事項を意識してのことと思われる。もしも事実はそうではなく、野球に関する賭けにも関与していたのであれば、少なくとも水原元通訳は野球界からの永久追放になる。

 しかし、最悪の場合として、更に3つの問題を考えておかねばならない。野球人が野球賭博に関与した場合にどうして問題になるのか、そこには具体的な悪質性として、3つの可能性があるからだ。

内部情報の提供はあったのか?

 1つは、敗退行為の可能性だ。いわゆる「八百長」行為だが、今回の水原通訳のケースでは、そうした工作をするというのは、どう考えても不可能である。

 2つ目は、内部の人間だけが知り得た情報によって賭ける行為だ。ベンチ内でしか分からない情報に基づいて賭けており、その結果として勝っていたのならば、これは悪質だ。だが、仮にそうなら胴元はすぐに当局に告発するだろうから、これも違うだろう。

 3つ目は、内部情報の提供だ。可能性としてはこちらであり、恐らくFBIも、そしてMLBも厳格な捜査を行うことになると思う。その前提として、現代の米国のネット野球賭博の仕組みは非常に高度である。

 試合の結果だけでなく、点差も賭けの対象だ。また、時々刻々と変わる試合の流れの中で賭け率もリアルタイムで変化する。また個人のプレーも対象であり、例えば「A選手は残り2打席、そこで打点が取れるか?」といった細かい「チャンス」に賭けることもある。

 勿論、試合中にベンチから情報を送るのは不可能だ。だが、試合時間以外であっても「特定の選手の調子やケガの状況」や、「ローテーションの変更」などの内部情報を胴元に送れば、胴元は「一般のユーザーの知らない」データを元にして「自社に有利な賭け率」の設定ができる。

 何しろ、全体的に動くカネが巨大なので、こうした「違法な内部情報」により動く金額も大きなものになる。水原元通訳がこうした行為に手を染めていた可能性は少ないと思うが、当局は徹底した捜査をしてくるだろう。

 重要なのは、問題が水原元通訳がクロかシロかというレベルではなくなってきているということだ。カリフォルニアはともかく、多くの州ではオンラインによるスポーツ賭博は合法化された巨大産業である。また、MLBとしても、TV中継やオンラインにおける広告収入、そして収益金の分配も受ける立場である。したがって、このオンライン野球賭博が「公正に実施」されているかというのは、全国レベルの社会問題になる。

 だから、当局もMLBも非常に問題を深刻に考えているのだ。そこには、黎明期以来時折問題になってきた、野球賭博の暗黒の歴史も重なっている。


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