この世論調査の公表も、また今回の馮教授の論評も、中国の対西側世論工作という側面もある。習近平政権の言論統制は極めて厳しく、当然、馮教授も関係当局の許可を得て寄稿しているはずだ。つまり、対西側世論工作として、国内にはこういうロシアに対する厳しい意見があることを知らしめ、中国は決してロシア一辺倒ではない、ということを西側社会に示すことを目的としているように思われる。
特に欧州との関係において、そうだ。中国と欧州との関係悪化の主因が中露関係にあることは中国側もよく分かっている。そこでロシアのかかえる問題点をえぐり出し、中国の立場をバランス良く描くことにより、対中認識を改善させようとしている、と見るべきであろう。
習近平の「微笑外交」の行方は
馮教授は、中国のロシアへのスタンスは戦争前の22年の「無制限」なものから、伝統的な「非同盟、非対立、そして第三国を標的にしない」原則に戻ったと“鋭敏な観察者”が指摘していると書いている。しかし、そもそも中露の「無制限」な協力関係は口にされただけであり実体を伴ったことは1度もない。
4月初めにラブロフ外相が訪中した際、習近平は会見している。ブリンケン米国務長官と同じ待遇だが、依然としてロシアを重視する姿勢に変化はなく、ショルツ独首相をはじめとした欧州指導者との会談の後も、この姿勢に変わりはない。
「習近平外交思想」という大きな枠組みを自分で作り、「戦狼外交」の失敗により軌道修正を迫られ「微笑外交」に転じたが、路線の修正は出来ず、迷走しているというのが現状であろう。ロシアとも欧州とも、そして米国とも上手くやることを目指すのが中国外交の現状だが、基本路線を修正せずに、全ての相手と上手くやれる道は限りなく狭い。