2024年7月16日(火)

令和の日本再生へ 今こそ知りたい平成全史

2024年5月17日

日本の借金が減らない
本当の理由

 毎年の財政赤字、すなわち公債発行の積み重ねで、政府債務残高はこれほどにまで積みあがってしまった。日本の政府債務残高(国と地方を合わせた残高)は、GDPの2.5倍を超え、世界史的にも類を見ないほどに累増した。バブル期に日経平均株価が当時最高値を記録した1989年末に、政府債務残高はGDPの60%強だった。

 そもそも日本の財政赤字が膨らみ出したのは、バブル崩壊後で、最初は景気対策として公債を発行して公共投資を増やしたことに起因する。バブル期前から日米貿易摩擦が外交問題化していた。その対応策として日本は内需拡大策に努めることとなり、公共投資を拡大することが国際公約となっていたことも背景にある。バブル期は、好況で税収も増えたため国債を増発せずに済んだが、バブル崩壊に伴い税収が減り、その補填として公債発行が増えていった。

 確かに、景気が悪くなると景気対策が必要になり、税収が減っても公債を増発して財政出動するから、財政赤字が膨らんでゆく、というイメージが強い。現に、第2次安倍内閣以降、菅義偉内閣、岸田文雄内閣に至るまで、その間、コロナ禍を除いて景気拡張期だった。にもかかわらず、デフレ脱却を目指して毎年「景気対策」を講じ、その度に、大規模な財政出動をしている。

 しかし、政府債務残高がこれほどにまで膨らんだ主因は、公共投資ではなく、公務員人件費でもない。主因は、高齢化によって増えた社会保障給付とそれを賄うのに必要な税収が足りなかったことである。

 図2は、90年度末から2023年度末にかけての国債残高が増えた要因分解をしたものである。これを見ると、1990年代には確かに公共投資が要因として大きいが、2000年度以降は社会保障費の増加が要因として突出して大きいことが分かる。加えて、景気対策でも減税が使われており、税収が減ったことで国債残高を増やす大きな要因となっていた。そして、直近では、新型コロナの感染拡大に伴い、20年には1人一律10万円を支給する特別定額給付金として13兆円が支払われ、その財源はすべて赤字国債であった。これも、国債残高の累増に追い打ちをかけた。

 一見滞りなく医療や介護のサービスが提供されているが、その裏側では、財源として税収が不十分にしか得られていないために、国債の増発を余儀なくされているのである。多くの国民は日本の借金が増えていることは自覚しているが、その要因は「無駄遣い」にあると思っている。だが、事実は違う。図2が示すように10年代までも社会保障関係費の比重が大きかったが、現在でもその状況は変わっていない。

 政府の借金が積み上がっても、景気が回復したり、国民の生活水準が向上したりしていればまだよい。しかし、バブル崩壊以降、借金で賄われた財政支出は経済成長にはつながっていない。財政政策のおかげで経済成長率が顕著に高まったということもない。

 さらに輪をかけて、21年度以降には「基金」という仕組みが多用された。これは、政府が借金で賄ったお金を、いったん財団法人などに払い出して貯めておき、複数年にわたり目的に応じて使うという仕組みである。政府は地球温暖化対策やイノベーション促進などのために基金をつくった。

 だが、この支出が経済に影響を与えるのは、政府から財政支出として基金を設置した法人に払い出したときではない。その基金から民間に補助金などの名目で支出され、それを活用して民間企業が事業を成功させたときである。しかも、補助金などをもらったからと言って事業が成功する保証はない。つまり、基金の多用により財政支出が経済成長につながらない状況をますます助長してしまったのだ。

 こうした結果、借金が純増し、国民もバラマキによって借金が増えていると勘違いしているのである。

※こちらの記事は「Wedge」2024年5月号の一部です。

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Wedge 2024年5月号より
平成全史
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小誌の創刊は、時代が昭和から平成となった直後の1989年4月20日である。平成時代は、政治の劣化や経済の停滞など、多くの「宿題」を残した。人々の記憶から忘れ去られないようにするには、正確な「記録」が必要だ。2号連続で「平成全史」を特集する。


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