2024年11月22日(金)

勝負の分かれ目

2024年5月18日

 それでも、決断には時間を要した。

 「自分が引退する姿がなかなか想像できなかった」

「これからは自由にスケートができる」

 偉大な背中が消えても、宇野さんは全力でスケートと向き合い続けた。22年、23年の世界選手権では日本男子初の2連覇を果たし、23年の全日本では2連覇で通算6度目の頂点に立った。

 いつしか、若いスケーターから背中を追いかけられる存在となった。「この数年でフィギュアは技術も表現面も進化している。どんどんハイレベルになっていくのが楽しみ」と、若い世代のめざましい進化に喜びも感じている。

 そんな後輩たちの姿を見て、昨年12月の全日本選手権後、コーチを務めるステファン・ランビエール氏に「次の大会で引退しようと思う」とこのシーズン限りでの決断を告げたという。

競技からは退いても、プロスケーターとして自由な表現を見せていく(Joosep Martinson - International Skating Union/gettyimages)

 「まさか、テレビで観ていたオリンピックでいい成績を残したり、世界選手権で優勝できるなんて思っていませんでした。いま、パッと後ろを振り向いてみると、ほんとにすごい道を歩いてきたなと感慨深いです」

 自らの競技人生をこう振り返った宇野は、「毎日の積み重ねのおかげで、笑顔で終えられる選手になった。僕にとっては、失敗も成功も宝物の時間になりました」と達成感をにじませた。

 2年後には次の五輪が控え、今なお世界のトップで活躍する実力を持っているが、競技者人生には「全く未練はない」と言い切る。

 そして、見据える先にあるのは、この先の明るい未来だ。

 プロのスケーターとして競技の枠を飛び越え、宇野さんが考える表現を氷上に描くことができる。「これからは自由にスケートができる。これをやらなきゃではなく、やってみようというワクワクした気持ちで練習ができています。ジャンプを跳ぶのもスピンをやるのも、自分で選べるというのは、自分の生き方にもマッチしていると思うので、すごく楽しみです」と胸を躍らせる。

 かつて人前で話すことが苦手だったという宇野さんはこの日、物怖じすることなく、堂々と自らの競技生活を振り返り、胸を張って近未来の青写真を披露した。

 「きょうは全く緊張していません。好き勝手しゃべっていいと思っているので」

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