若者と中高年では、社会的な立場が違いますのでストレス要因が大きく異なります。働く中高年は、責任のプレッシャーや仕事量の多さ、部下の管理などで病むケースが多いと思いますが、若年層では就活うつ、現代型(新型)うつなどといわれるような、自分で抱えきれないストレスで発症するケースが大半だと思います。
相手の価値観に入ることが必要
―― 職場の上司などによくあるパターンですが、自分の経験、価値観で落ち込んでいる部下に話をしてしまう人がいます。親切に語っているつもりなのでしょうが、これは効果がない。うつ症状の人をサポートするには、このような考え方が間違いであることを知ることが必要になるのではないですか。
石井:講座を何回も受講している人の中にも、頭では理解しているのですが、サポートするうちに自分流の価値観、考えで話してしまっている、という事例を聞きます。余計な事をつい言ってしまう。そうではなく、相手の価値観の中に入り、相手が何を必要としているのかを見つけ出すことが大事なのです。多くを語る必要はなく、一言だけでも相手の状態が変ることがある。これはカウンセリング、コーチングでも最初に学ぶことです。これが傾聴です。
この逆のパターンともいえるのが、お互いの距離が短すぎることで起こる現象で、若年層に多いケースです。こんな例がありました。サポートしなくてはいけないと思っている友人から夜中に電話があり、朝まで話を聞いてあげたという。これは傾聴ではなく、共倒れになるだけ。
電話をかけたほうは、話を聞いてほしいという相手に依存している。受けている方はサポートしようという気持ちで聞いているのですが、実際は人の役に立ちたいという願望を叶えているだけ。これは電話をかけてきた人に依存していることになります。意味がないですね。やらないことを決めること、生活リズムを守ることの大切さも伝えています。
―― 身近な人で、うつ症状に陥っている人が必ずいます。まず、どう接すればいいのでしょうか。頑張れと、言ってはいけないのでしょうか。
石井:確かに周囲には、不調な人がいると思います。一言声をかけてみる、食事に誘ってみるだけでも、救いの手になるケースがあると思います。もちろん状況を考えて不用意な言葉は避けなければいけません。だからといって「頑張れ!」などは、絶対に言ってはいけない言葉だとは思いません。いけないのは自分の価値観から発する「頑張れ!」です。相手の気持ちになって考えることこそが、求められるのです。背中を押してあげる場合だってありますから。
少し似た話ですが、「うつ病は心の風邪」というコピーが使われてきました。これは多くの指摘があるように抗うつ剤の販売用に作られた文言としか思えません。うつ病は薬で治すというロジックが患者に浸透してしまったことは間違いではないでしょうか。うつ病は抗うつ剤だけではなく、身近な人や社会全体で治していくことが必要だと考えています。そのための活動をしています。
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