2024年7月16日(火)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2024年6月4日

在庫が倍増した理由

 こうしたクジラ肉の在庫が積み上がってしまったのは、今回捕獲対象に追加されるクジラであるナガスクジラを大量にアイスランドから輸入したことに起因している。日本はIWCに加盟していた当時、調査という名目でクジラを南極海や北太平洋の航海上でも捕獲していたが、商業捕鯨開始後、操業海域は排他的経済水域に限定されてしまったため、日本のクジラ肉の生産量は調査捕鯨時の3000トン程度だったものが2000トン未満に減少してしまったと推定されている。

 これでは市場を支える十分な供給量が見込めないと判断した共同船舶は、23年はじめにアイスランドが生産した2546トンのナガスクジラの肉を輸入したのである。当初、共同船舶は水産庁が管轄する海外漁業協力財団(OFCF)からの融資を求めていたが、最終的に水産庁はこうした疑似的公的支援ともいえる融資を拒否。共同船舶は市中から資金を調達してキロ1192円、合計約30億円(財務省貿易統計による)で全量買い取ることとなった。

 捕鯨会社的にはこれで十分な供給が確保されたと考えたのかも知れないが、残念ながら需要はこれを吸収するには程遠かった。現在までのところ捌けたのは500トン程度に過ぎず、共同船舶の所英樹社長によると、現在アイスランドからのクジラ肉の在庫は約2000トンとされている。24年2月末現在の在庫量4391トンから2000トンを引いた2391トンは、おおよそアイスランドからの輸入以前のちょうど1年前の22年2月末の在庫量(2346トン)におおよそ合致している。

 クジラ肉は生ものであるがゆえ、露天で棚ざらしで保管と言うわけにはいかない。冷凍倉庫での保管だけでも相当な費用がかかる。昨年、水産庁は捕鯨問題に関する検討委員会を立ち上げたが、ここでの最終報告書でも共同船舶の「今後の収支面の不安要素として、令和6(2024)年3月に竣工予定の新母船の減価償却費、令和5(2023)年5月に購入したアイスランド鯨肉の保管等に係る費用が挙げられる」と指摘されている。

 2000トン分のクジラ肉のアイスランドからの買取価格はキロ1192円なので、合計で約24億円にのぼり、これは市中からの融資によって賄われていることから、当然返済が必要となる。さきほどの検討委員会でも指摘されている新母船の建造費は約75億円にのぼる。

 これについて水産庁の外郭団体であるOFCFが融資していることから、一般の金融機関よりは大幅に優遇された条件と思料されるものの、共同船舶は20年で減価償却することを予定している。全ての融資の条件が利息ゼロであったと仮定したとしても、年間で3億7500万円(75億円÷20年)が必要となる。

 ある捕鯨関係者から、ナガスクジラ肉の不良在庫を「時限爆弾」と懸念する声を聞いたことがある。捕鯨操業会社は合計24億円分のクジラ肉の販売、この肉の買い取りのために市中から融資を受けた借入金の返済、2000トン分の冷凍倉庫賃貸費用の負担、さらに加えて最も有利な条件と仮定しても年間3.75億円の借金返済という経営課題を抱えていることになる。


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