2024年5月21日、山口県下関市で捕鯨船の出漁式が行われた。日本が国際捕鯨委員会(International Whaling Commission: IWC)を脱退し商業捕鯨を再開して5年が経つが、今年の出漁式は例年になく華やいだものとなった。というのも、これまで約30年にわたって操業を支えてきた捕鯨母船が老朽化により退役し、新たに建造された母船「関鯨丸」の初出漁だからである。
式には地元選出の国会議員、自治体関係者などが出席。船主で捕鯨操業会社である共同船舶の所英樹社長は「新船建造は、沖合母船式捕鯨漁業を途絶えさせないという意志だ」と操業の決意を示した。
今年の操業がこれまでと異なっている点はもう一つある。これまで捕獲対象が大型鯨類の中でも相対的に小型であるミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ3種だったところ、今年から地球最大の動物、シロナガスクジラに次いで大型のナガスクジラを新たに加えることを主管官庁である水産庁が許可する見通しであるという点だ。
6月5日までにパブリックコメントを実施し、6月中旬に開催される水産政策審議会に諮ったうえで、早ければ7月中からナガスクジラ数十頭を捕獲対象に加えられる予定である。共同船舶はこのクジラの追加を前々から強く要望しており、水産庁がゴーサインを与えたということになる。
需要が供給に追いつかず
こうして新たな捕獲対象が追加され、生産量も増加が見込まれる一方、需要の方はというと、クジラ肉の増加についてきていない。農林水産省統計「冷蔵水産物在庫量調査」によると、商業捕鯨が再開された19年の年平均クジラ肉在庫量は2333トン、20年は1767トン、21年2227トン、22年2118トンと相対的に安定して推移していた一方、23年末の在庫量は4813トンと大幅に増加。最新の統計である24年2月末現在でも4391トンと、これまでの倍以上の在庫を抱えている。
捕鯨操業会社である共同船舶は2000年代後半、大量の売れない不良在庫を抱えてしまったことから経営が悪化、業を煮やした担当官庁の水産庁担当者が経営の刷新を強く求めた経緯がある。その後、民主党政権下で11年度に実施された東日本大震災の復興予算(第三次補正)名目で22億8000万円が捕鯨対策に投入されたことにより赤字は解消されたが、現在の在庫量は捕鯨会社の経営が困難な状況に陥った時期の在庫量である4000~5000トンに匹敵する水準に迫っている。