こうした中国やロシアの状況に比して、米国にとって、人口状況は強みになっていると言って良い。確かに欧州と同様に出生率は低下しているが、モルモン教徒や福音派の伝統によって出生率の低下が緩和されている。また、米国は移民を引きつける力があるため、中国やロシアでは人口が減少しているのに反し、移民が人口増加の一因となっている。
米国も、人口の高齢化が進むにつれて、年金支払い額が増大するという新たな現実に向き合う必要性があるが、ロシアや中国にとって逆人口ピラミットが生産性や成長の大きな足かせになるのとは異なっている。
チャウシェスク時代のルーマニアが経験したように、権威主義体制にとっても、人口増加を促すことは人口を制限することよりもはるかに難しい。
米国は自らの持つ強み、すなわち、政治的・経済的自由や、それによって子どもを育てるところとして魅力的な場所となっていることを軽視すべきではない。米国はロシアと中国がもたらす多くの脅威に立ち向かっていく必要があるが、ロシアと中国の人口が減少することで米国のなすべきことは大いに容易になろう。
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人口=国力ではない
人口動態は、現在のデータから未来の写し絵が現れるものであり、国際関係を考える際、重要な要素である。人口ボーナス、人口オーナスのように、人口動態によって、人口が経済成長ないし経済停滞の要因となり得ることはそれぞれの国の経済力の長期トレンドを考える際、念頭に置くべき重要ファクターである。
また、若年層の比率が多い場合、活力の源となり得ると共に、社会や周囲の環境への「異議申し立て」の運動・活動を盛んにする要因となったり、集団・国家として戦争・武力紛争に向かうことを容易にしたりすることは、地域情勢に影響を与える要因である。
このように人口動態は、国際関係を考える際、枢要なファクターであるが、この論説のように現実の国際関係に引きつけて議論する際には、いくつか留意すべき点がある。
第一に、人口動態による国家のパワー・バランスへの影響はあくまでも長期的なトレンドとして現れることであり、そこから短期的な帰結を導くべきものではない。この論説が指摘するとおり、人口問題で見る限り、米国は、中国、ロシアに比して強みを持っているが、だからといって、当面の個別の紛争、懸案、力比べでの優劣が導かれるものではない。