午後のコロンボ空港は予想外の大混雑、中東を目指す青年集団
12月27日。コロンボ市内バスターミナルから満席のバスで小一時間、午後2時にコロンボ・バンダラナイケ国際空港到着。出発ロビーに至る通路がやたらと混雑している。通路の両側に銀行の両替所が十数軒もずらりと並んでおり、それぞれの窓口に大勢の青年が押し寄せていた。
やっとのことで出発ロビーに入るとスリランカ人用の安全検査場入口の前に青年たちが整然と長蛇の列をつくり順番待ちしている。外国人用の入口には小旗を掲げたツアーガイドの後に中国人団体観光客が十数人並んでいるだけで閑散としている。スリランカ人用安全検査場は混雑しているらしく長蛇の列はほとんど進まない。
青年たちは数十人くらいのグループごとに同じ服装をしている。白シャツ、スカイブルーのポロシャツ、ロゴ入りのTシャツなどそれぞれ一目でグループが分かる同じ上着を着ている。不思議なのは全員が黒いズボンをはいていることだった。
そして安全検査場の行列に並ぶ前にグループ毎に集合して手配業者から渡航の説明を受けているいくつもの集団が出発ロビーを占拠していた。出発ロビーのベンチでは集合時間前に空港に着いた青年たちと見送りの家族や恋人が最後の別れを惜しんでいた。
フライトスケジュールを表示している電光掲示板を見て混雑の理由が分かった。午後の出発便はムンバイ、コルカタ、上海などインド・中国行きの数便を除いてすべて中東諸都市が目的地だった。リヤド、ジェッダ、ダンマム、ドバイ、アブダビ、クウェート、ドーハ、アンマン……。青年たちは中東への出稼ぎ労働者だったのだ。
海外出稼ぎはスリランカの貴重な外貨収入源
外貨不足が深刻なスリランカでは海外出稼ぎ労働者からの海外送金は重要な外貨収入源である。2014年からコロナの影響が出る前の2020年まで毎年70億ドル前後の海外送金があった。コロナの影響で2021年は55億ドル(GDPの6%)、2022年は38億ドル(GDPの5%)と落ち込んだが今後は大幅増加が見込まれる。
ちなみに紅茶の輸出額は過去15年間毎年十数億ドル~15億ドルで推移。また観光収入はコロナ前の2018年がピークで42億ドルであり2022年は10億ドルであった。いかに出稼ぎ海外送金がスリランカの外貨バランスに貢献しているか一目瞭然だ。
統計によると2022年に出稼ぎ労働者として31万人が出国し最多記録をマーク。出稼ぎ先の国別ではサウジアラビア、カタール、UAE、クウェートなど中東が過半をしめている。次に移住を目的としてカナダ、英国などへの出稼ぎも多い。ヌワラ・エリアの紅茶農園のタミル人労働者部落で聞いた話でも知人や親戚など多数がサウジアラビア、クウェート、ドバイ、オマーンなどの中東へ出稼ぎに行っていた。
近年は韓国がスリランカとの二国間協定により急増。韓国政府機関がコロンボに事務所を開設して直接韓国への労働者送り出し業務を行っている。韓国にスリランカ人労働者が多い訳だ(注:『韓国津々浦々の外国人労働者、日本ではなく韓国を選んだ理由』ご参照)。日本は未だ少数で在留スリランカ人全体でも1万人程度だ。
インターナショナル・スクールは自国民の海外移住が最終目的
スリランカで不思議に思ったのはおよそ外国人が住んでいないような地方都市にもインターナショナル・スクールが存在することだ。ヌワラ・エリアの紅茶畑の真ん中にもインターナショナル・スクールがあった。
キャンディーのインターナショナル・スクールの女性校長と話して理由が分かった。そもそもコロンボ以外のスリランカのインターナショナル・スクールは外国人子女ではなく自国の富裕層子女を対象としているという。
スリランカの教育制度では小学5年、高校入試、大学入試の三回、全国統一試験があり(本編第5回『財政破綻以前は医療と教育は無償だったスリランカの今』ご参照)、国立大学に入学できる確率は同学齢の子供の数パーセントという超難関である。富裕層の子供でも国立大学に入るのは狭き門である。そして経済破綻により大学卒業しても国内に相応しい就職先がないためいわゆる学歴難民が激増している。
スリランカの現状や将来に悲観している富裕層は将来子供が先進国でそれなりの仕事に就いて最終的には移住できるよう学歴をつけることを望んでいる。先進国の大学への入学は学力的にコロンボの国立大学と比較すれば格段に容易である。それゆえ海外の大学が受け容れる国際的に認定されたカリキュラムのインターナショナル・スクールへ子供を入れるのである。