2024年12月22日(日)

古希バックパッカー海外放浪記

2024年1月28日

『2023.11.11~12.28 47日間 総費用22万円(航空券8万7000円含む)』

釣り具問屋の老主人の嘆き

 11月14日。コロンボ港近くの問屋街の釣り具問屋の老主人。実務は息子に任せて半分隠居している80歳。店先でミルクティーをご馳走になりながら世間話をしているうちに政治・経済の話に。老主人によるとスリランカが独立してから1960年代まではスリランカはアジアでは日本に次ぐ豊かな国家であったという。

 当時はシンガポール、マレーシア、タイよりも豊かだった。第二次大戦の戦禍を受けず英国人から引き継いだプランテーションから紅茶・ゴム・ココナツ・木材などを輸出して外貨を稼ぎ、他方で米作や漁業により食糧も自給できていたので経済は安定。ちなみにスリランカがかつてアジアで経済的に上位にあったことはスリランカの人々の共通認識のようだ。

 その後、1980年代から自治・独立を求めるスリランカ北東部のタミル人による武装集団“タミル・イーラム解放の虎”による内乱が長く続いた。内乱と並行して国家経済をダメにしてきたのは歴代政権による汚職と国富の横領という。スリランカでは二大政党の国民党と自由党により政治が握られてきたが、いずれの政権でも汚職構造は変わらなかったという。

首都コロンボのランドマークであるテレビ塔『ロータスタワー』。当時のマ ヒンド・ラージャパクサ大統領の肝いりで中国輸出入銀行の融資で建設された

 2009年に内乱が終結したが、経済再建を急ぐ政府は中国に依存して大規模プロジェクトを推進。裏では政治家は中国から莫大な賄賂を受け取り海外の銀行口座に蓄財。中国からの借金でスリランカは中国の属国になりつつある。ウガンダなどアフリカ諸国の二の舞になると老主人は憂いた。

断固とした措置で内乱を終結させた英雄は経済破綻と巨大汚職で国外逃亡

 アヌラーダプラの民宿オーナー一家の青年によると“タミル・イーラム解放の虎”(ITTE)はテロ集団であったが、歴代政府は妥協したり話し合いで解決しようとして内乱を長引かせてきたと批判。歴代政権は何度もITTEと停戦合意したが、そのたびに裏切られた。マヒンダ・ラージャパクサ大統領(自由党)は徹底した掃討作戦で2009年に内乱を終わらせ平和をもたらしたと青年は評価した。

 他方でラージャパクサ一族は、2005年から20年近く政権を握り経済再建策として中国支援による大規模プロジェクトを推進。結果的に“中国の債務の罠”に陥り、2022年4月債務不履行となり経済破綻。さらに一族が中国から莫大な賄賂を受け取ったと糾弾する反政府デモの結果、同年7月に当時のゴタバヤ・ラージャパクサ大統領(自由党)が国外逃亡。

 青年によると、当時首相で臨時に大統領職を引き継いだ現在のウイクラマシンハ大統領(国民党)は、中国と距離を置こうとしているが無理だろうと国民は見抜いているという。

政治家・役人の汚職・公金横領の構造的体質と国民に蔓延する政治不信

 独立後、現在に至るまでの歴代政権における二大政党の政治家・役人による汚職・腐敗がスリランカの発展を阻害してきた最大の原因という批判は、スリランカで政治経済を話すと誰もが必ず指摘する。“絶望的政治不信”が国民に蔓延している。 

 キャンディーの名門の公立学校長は、政府から派遣された剛腕官僚。現在の大統領は74歳であり25年前にも首相を経験しておりスリランカの既存政党・マンネリ政治を象徴する政治家と切り捨てた。

 アッラのゲストハウスのマネージャー氏は、二大政党の既存政治家による汚職構造は何度選挙しても変わらないと断言。マネージャー氏は「共産党は現在国会253議席のうち3議席しかないが、平均年齢も若く大卒知識人が中心の共産党に一縷の希望を託している」と語っていた。

 ヒッカドゥアのホテルオーナーのK氏は、ラージャパクサ一族(マヒンド・ラージャパクサ元大統領・元首相、ゴタバヤ・ラージャパクサ元大統領など)による不正蓄財は43億ドルという巨額でありスイス銀行など海外に持ち出されたと糾弾。共産党と二大政党反対勢力が糾合したNPP(National People’s Power)が、万が一にも次回大統領選挙・総選挙で大勝するようなことがあれば、スリランカも変われるのだがと嘆息した。

 誰に聞いてもスリランカの汚職腐敗政治構造が変わる見込みがなく国家の未来に希望を持てないと肩を落とす。

マッタラ・ラージャパクサ国際空港の無人の出発ロビー。搭乗手続きカウンターも無人。別名「世界一暇な空港」。政治家一族のラージャパクサ家の地元のマッタラに中国の融資で建設された

スリランカの民主主義が問われる2024年の大統領選挙・総選挙

 インドと同じくスリランカは1948年の独立以来クーデターによる政変は皆無であり選挙で指導者が選ばれる民主主義を維持してきた。上記K氏によると、憲法上の規定により選挙により今年10月までに現在の大統領・首相は再選されるか交替しなければならない。

 しかし経済不振と重税により現政権の支持率は最低ラインであり、何かと理由を付けて選挙を先送りしている。K氏は今年8月までに公正な選挙が実施しなければ政治的な大混乱が起こると深刻に懸念した。


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