注目される「港区モデル」
その中で、全国からの注目を集めているのが「港区モデル」である。
港区モデルとは、港区が令和4年度に区独自の取り組みとして始めたもので、補聴器の購入前の相談からアフターケアまでを一連のパッケージとして支援する制度である。上限は13万7000円で、年齢も「60歳以上」と敷居が低めの印象を受ける。
「助成しても“使えない補聴器”をお渡ししては意味がないと考えました。手にしていただいた方々に確実に聞こえを良くしていただくために、港区医師会の理事や有識者の方々とも協議を重ねてご意見をいただいたうえで制度設計しています。具体的には、補聴器相談医が在籍する医療機関を受診し、認定補聴器技能者のいる販売店で補聴器を購入してもらうだけでなく、調整を行う予定日を提出してもらうなど、補聴器トレーニングをしっかり行ってもらうための条件をつけています」(港区高齢者支援課)
スタートした令和4年度の予算は8379万円。当初2272万4000円としていたものが、利用者数が523人となり予算オーバーしたために、6106万6000円を補正した。2年目の去年令和5年度は6594万3000円の予算で、443人が利用した。
聴力検査の重要性
そして今年令和6年度の予算は4949万6000円だが、2年間実施した経験を踏まえて、新たな事業「聴力検査」を別予算485万2000円でスタートさせた。対象は、60歳、65歳、70歳、75歳の区民約9500人である。
「港区医師会によると、区内には自覚がないものの聴力に異常がある高齢者が3割いるとされています。聴力をしっかり検査していただいて、聞こえに不自由を感じる人をできるだけ取りこぼさず、快適に聞こえる暮らしを確保していただくために聴力検査を開始しました」とは、港区みなと保健所健康推進課。
実際、補聴器が普及しない理由の一つとして、第16回で上げた2つめが「難聴を自覚するのが難しい」だった。そして自覚のポイントになるであろう「聴力の把握」については、検査する機会が少ないことも関係していると考えられる。
「加齢性難聴患者は65歳から増えてくるのですが、会社の健康診断で聴力検査をしていた人でも65歳くらいで退職して、ちょうどその頃から検査をしなくなります。よって、高齢者の聴力検査機会を作るのは、加齢性難聴対策の最も重要なものの一つです」とは、先の「オトクリニック東京」院長の小川先生。
港区でスタートした事業は、医師・行政・販売店がタッグを組んで難聴者の支援……ひいては高齢者の快適な日常生活や社会参加の支援を行おうとするものだ。
「難聴の方はなかなかご自身が難聴だとは気づきませんし、助成事業が行われる前は医師も患者さんに補聴器を勧めることが多くはなかったと思います」と言うのは、新潟プロジェクトのきっかけを作った新潟市の大滝先生。
助成が行われるようになったことで、様々な立場の人が、自分自身の立場で実際に高齢者たちと向き合い始めている。(続く)