2024年11月25日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年7月2日

 6月6日に香港の終審法院の非常任海外裁判官を辞任した英国出身のJonathan Sumptionが、香港の法の支配と司法の独立を取り巻く劣悪な状況を描写し、自身の辞任の理由を説明する一文をフィナンシャル・タイムズに6月10日付で寄稿している。要旨は次の通り。

(VanReeel/FOTOKITA/gettyimages)

 5月30日、香港の高等法院は2020年の国家安全維持法に違反する「政権転覆の陰謀」の容疑で14人の著名な民主派の政治家を有罪とする判決を下した。被告は、(20年9月に予定されていた)立法会の選挙に向けて民主派の候補者を選定するため、(同年6月に)非公式な予備選挙を実施したことを問題視された。予備選挙は予算承認と引き換えに普遍的な選挙権その他の譲歩を要求するべく立法会の多数獲得を目指したキャンペーンだった。

 香港の基本法は普遍的な選挙権は「究極的な目標」と規定している。基本法は立法会に予算案を否決する権限を明示的に認めており、予算案が二度否決された場合には行政長官は辞任せねばならないことを規定している。

 しかし、高等法院は、予算案の否決は行政長官に政策を変えさせるために圧力をかける上で許容される方法ではないと決定した。その結果、立法会は政府に歓迎されない目的のためには明示的な憲法上の権利を行使できないことになった。

 そのような計画を有権者の前に提示することは犯罪的陰謀だと烙印を押された。最大の刑罰は終身刑で、最低限10年の禁固である。

 この決定は、必ずしも法の支配が死んだことを意味しないが、香港の裁判官は、中国によって作られた不可能な政治的環境の中で活動しなければならなくなる。

 第一の問題は、国家安全維持法にある植民地時代の扇動罪の名残の規定である。この非リベラルな法制は裁判官の行動の自由を完全に削ぐものではないが、厳しく制限する。裁判官は法を適用する必要がある。

 第二に、すべての裁判官は、基本法の下では、中国が裁判所の決定が気に入らなければ、全人代常務委員会による「解釈」によって決定を覆すことが出来ることを知っている。(リンゴ日報の)ジミー・ライ(黎 智英)の弁護を英国の弁護士に認めた裁判所の決定が覆ったことは、中国が容赦なく「解釈」を使うことの例である。


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