民主主義の根幹にある
「By the people」の考え方
政治家の姿勢も重要になる。日本政治史に詳しい帝京大学の筒井清忠文学部長は「日本には選挙権が普及する過程で『票の買収』が横行した歴史がある。戦前には政治家=金に汚い人とされた時期もあり、潜在的に国民からの信頼が乏しいのではないか。特に現在はスキャンダルを煽るメディアの力も相俟って政治家が尊敬の対象からは程遠く、国民も距離を置く悪循環に陥っている。民主主義の根幹は『For the people(人民のため)』ではなく『By the people(人民による)』の理念。人民が政治家を選ぶとき尊敬の対象になるような、政治家の努力とメディアの報道姿勢が必要だ」と指摘する。
近年、民主主義は権威主義に比べて物事の決定に時間・手間・カネがかかり、改革も思うように進まず「民主主義のコスト」を問題視する言説も見られるようになった。
だが、かつて英国のウィンストン・チャーチル首相が「民主主義は最悪の政治形態と言っていい。ただし、これまで歴史上、試されてきたそれ以外のあらゆる政治形態を除けば」と述べたように、民主主義には欠点もあるが、それに勝る政治形態はないと言える。日本はアジア最古の民主主義国として民主主義を守り、育む責務がある。
政治外交史を研究する京都大学の奈良岡聰智教授は「台湾や香港など、同じ東アジアで自由が失われる状況を見ても日本には民主主義が崩れるという危機感は薄い」と話す。生まれながらにして民主主義の恩恵を受けてきた若者は、幸か不幸かその価値の偉大さに気付かず、日本が民主主義を失った姿を想像するのが難しいのかもしれない。
国内外の情勢が不安定で先が見えない今だからこそ、若者も民主主義社会を構成する一員だという自覚と他者への思いやりをもって政治に参加し、意思を示すことが重要ではないか。